設立趣旨

現代社会が大きく変動するなか、医療や福祉、教育、コミュニティなど人間の生を支え、育む場もまた大きな変化の時代を迎えています。人間が人間を求める「ケアの時代」にあって、生の質とは何か、それを高めるとはどういうことか、幸福とは何か、豊かに生きるとはどのようなことかという疑問が提示されはじめています。
芸術の分野においても「芸術は社会にとって必要か」という問いのもと、特権的なものではなく、人間にとって、社会にとって必要な芸術のあり方が問われています。
このようななか、医療におけるアートの役割、豊かに美しく老いること、コミュニティとアートの関わり、障害と創造性、自然と癒し、テクノロジーの進歩とヘルスケアの関わりなど、アートが「芸術」の意味をこえ、人間の生きる技術としてのアートの実践が各地ではじまっています。それらのケアの現場におけるアートの実践は、想像力による生きる力の回復であり、人間らしい感性を社会システムのなかに取り戻していくための、アートの新しい可能性にほかなりません。
しかし、これらの実際の行動としてのアートは、分野を横断した多様な活動であるために、実践を体系づけ、その社会的意義、理念を探究していく場がほとんどありませんでした。
そこで、人間の生命、ケアにおけるアートの役割を研究する場として、また人間を幸福にし、人間の全体性を恢復していくためのアートの力を社会にいかしていくためのネットワークとして、アートミーツケア学会を設立することにしました。
本学会は、実質的かつ実践的に、研究者、実践者の枠をこえ、研究と現場を往還し、豊かな感性から確かな知をうみだしていくことをめざします。また、人文、社会、自然科学の分野を横断し、さまざまな社会の問題に対してアートの力を提案し、しなやかな視点をもちながら一人ひとりの物語を大切にした社会システムについて考えていきます。同時に、新しい時代における健康とは何かを考え、人間の全体性の恢復、一人ひとりが生まれ持ったいのちを花開かせることのできる社会についても考えていきます。
アートは人間の生命にどのような意味をもっているのか、そして私たちの未来に対してどのような役割を果たしていくことができるのか。積極的な生のあり方、感受性をともなった知のあり方を探究することから、新しい知と新しい美の地平をひらき、人の生きやすい社会、文化を提案したいと思います。

 

2006年3月11日 設立発起人一同