発表要旨(ポスター発表)
16:15-17:15 (多次元デザイン実験棟)
※複数の発表が同時並行で進行します。
ポスター①実践報告「ドイツ生まれの滞在型市民農園「クラインガルテン」及び「オープンガーデン」からの実践報告」
西野昌克(関西医科大学看護学部)
【キーワード】クラインガルテン オープンガーデン イングリッシュガーデン 田舎暮らし
【発表要旨】2022年新型コロナ渦のなかで大学教員を退職し、これまで都市生活を送ってきた私は、心の故郷を求め兵庫県朝来市の滞在型市民農園「クラインガルテン伊由の郷」に入居し、以降大阪の自宅との2拠点生活を送るようになる。 兵庫県朝来市は雲海で有名な竹田城跡や生野銀山跡が観光資源であり、2005年には朝来町、和田山町、山東町、生野町が統合されている。1999年には広大な公園に野外彫刻を設置した「あさご芸術の森美術館」がオープンする。 クラインガルテン(Kleingarten)の入居者の多くは都市生活者であり、週末には畑で作物を有機栽培することを楽しんでいるが、当初私は有機栽培に興味を持てず、以前よりガーデニングを趣味にしていたこともあり、雑誌によく紹介されている「イングリッシュガーデン」を目指し、バラや宿根草を定植し植物と深く対峙するようになる。 生物学者、植物学者でもない私が植物と共生するのは空間デザイン或いはランドスケープデザインとしてのフィールドワークであり、いささか個人的な老後の過ごし方への提案でもあるが、実践を通して気づいたガーデニングの効能をまとめてみたいと思う。 植物を育てるなかで植物の持つ感性や不思議な体験を通してヒトの営みと健康、共生について考えるようになった。 ドイツ語で「小さな庭」を意味するクラインガルテンは、日本でも2000年頃から地方自治体によって整備され、家庭菜園やガーデニングする目的で都市生活者を中心に全国に広がる。 また自宅の庭を公開する市のイベント「あさごオープンガーデン」に参加し、多くの市民や庭仲間との交流から見えてくる自然豊かな地方の発展と課題をまとめて発表したいと考える。 現在勤務する関西医科大学の総合医療センターには、「ホスピタルガーデン」が整備され、入院患者(リハビリテーション)やご家族の散歩に利用されている。 医療との直接的な関わりはないものの、庭や植物とヒトとの関係性に多くの学びがある。
ポスター②研究発表「ホスピタリティアート・プロジェクト 2009−2024」
三浦賢治(金沢美術工芸大学)
【キーワード】HAP
【発表要旨】金沢市立病院と金沢美術工芸大学が連携するホスピタリティアート・プロジェクト(HAP)は、医療分野におけるアートの潜在的な可能性について調査研究し、実践していく取組みとして、2009年に発足以来現在まで15年にわたり継続しているプロジェクトである。 本プロジェクトは、「ホスピタル(hospital)」の原義である「ホスピタリティ(hospitality)→もてなし」の精神を互いの共通理念としている。ホスピタリティを「ケア」と読み替え、病気からの快復と日々の健康を願う市民に対し、創意と表現そしてコミュニケーションとしての「アート」を活かし、医療と芸術をつなぐ領域からの新しい医療活動及び芸術活動を発信することを目指してきた。 プロジェクト開始当初(2009年)は、金沢市立病院と金沢美術工芸大学との会議を重ねながら活動の方向性を探る中で、金沢美術工芸大学の美術・デザイン・工芸それぞれの分野の特質を生かした企画を提案し、それを金沢市立病院が受け入れる形で作品展示やワークショップが実施された。 本プロジェクトは一つの自治体の括りの中に行政、医療機関、芸術系大学がバランスよく協働する関係が成立しており、その構造において、アートプロジェクトのあり方として全国的にみても幸せな環境にあったといえるかもしれない。そしてその状況、関係性は、本プロジェクトが15年間安定的に継続する上での土台となっていたと思われる。 これまでの活動を重ねていく中で、近年金沢市立病院は「地域がつくる安らぎの医療」を唱え、病院近くの施設に「まちなかサロン」を設け、地域住民に向けた健康増進のための市民講座を定期的に実施している。一方、金沢美術工芸大学では大学としての社会貢献の実績のほか、プロジェクトに参加した学生が創造についての新たな視点を見出す機会を与えてきたと考えられる。しかしながら教育に還元する具体的な形(例えば新しい芸術分野の創出に向けたプロジェクトの単位化など)には至っていない。金沢美術工芸大学以外にも医療とアートの協働に取り組む芸術系大学の活動は見られる中で、これまでに蓄積する記録を学術的視点で取りまとめ、本学におけるプロジェクトの社会的意義と今後の展望についての指針を示す必要があると考える。本発表では、プロジェクトコーディネーターを務める発表者の視点からプロジェクトの立ち上げから現在に至るまでを総括し、ケアとアートの関係を示す一例として紹介することで、ホスピタルアートにおける本プロジェクトの立ち位置を問う機会としたい。
ポスター③実践報告「 ART/3Cアトリプシー わたしたちでつくる、ケアとアートのしくみ ー遊びごころのある自己表現を用いた、コミュニケーションデザインの実践的考察ー」
榎原理絵(井村理絵)(さつきデザイン事務所)
【キーワード】がん患者 ケア アート コミュニケーションデザイン つながり
【発表要旨】本報告は、がんを患う当事者として筆者が闘病者とその家族・友人のQOL向上のためにケアとアートのしくみ(愛称:ART+3C/アトリプシー)を構築している中で、アートを用いた自己表現と社会とつながるためのコミュニケーションデザインについて考察したものである。 人生100年時代といわれる超高齢化社会において、日本のがん患者は、2023年の統計によると約100万人を超えて存在する。一方で、医療の進歩により生存率は向上し、がん患者は長く続く治療や治療後の生活の中で、病気や過酷な治療によって髪の毛が抜けるなどの容姿の変化に対して悩んだり、思うように仕事ができず解雇されたり、仕事を失うことへの不安に直面する。今回は、筆者と同じ乳がん罹患者とご家族、そして、AYA世代、小児がんと闘う子どもたちと親とともに活動した内容について報告する。 まずは、困難な状況において、自己に生じた苦痛をありのまま受け入れ、その苦痛を緩和できるよう自己肯定感の回復サポートを行うために芸術を手段とし、アルコールインクアートのワークショップを検討し実施した。このワークショップを通じて、自己表現するきっかけを試みた内容と参加者の気持ちの変化について結果を報告する。次に、個人の境界線を越えて筆者との関わり合い、互いに影響し合うことを目的として、作品が選ばれた参加者に対して、その絵に込めた思いをタイトルと文章で表してもらい、その作品を筆者が編集してスカーフの柄に落とし込み視覚化した。さらに、インクジェットプリンターを用いて印刷し、縫製を行い110㎝×110㎝のシルクやコットンのスカーフに仕上げた。参加者が好奇心を持ってこの活動に取り組めるように、自分自身の力や考えを信じて、前向きに可能性を追求して楽観性を持てるように、その仕上がったスカーフを参加者に纏ってもらい、本格的な撮影を実施した実践内容について述べる。 このプロセスを経て、筆者と参加者が、ありのままの自分を認められるようになったか、自己肯定感の回復につながっているか、闘病者であっても良く生きること(well-being)が目指せているか、つまり、ケアにつながっているかどうかをヒアリング調査を元に分析する。また、人や社会とのつながりができたかについては、結果が得られるまで時間を要するため、まずは社会で暮らす闘病者ではない人達に対して、わたしたちのことを知るきっかけや気づきを与えられるようなコミュニケーションデザインの手法について触れたい。 当活動の目的は、わたしたちと呼べる関係性を社会に増やすことで相互ケアを生み出し、関わる人々のQOLを向上させることである。したがって、その目的に到達できるしくみになりうるかどうか研究を交えながら実践し、社会的意義のある活動になるよう事業目線も踏まえながら評価し、今後の課題と可能性について考察する。
ポスター④実践報告「じゃがじゃがプロジェクト:メンタルヘルスケアに携わる人のサポートグループ」
大野美子(大阪大学大学院人間科学研究科)、北畑雄大(紀南こころの医療センター)
【キーワード】メンタルヘルス、ケアする人のケア、コ・プロダクション、専門職、対話
【発表要旨】日本の精神障害者支援においては、入院医療中心から地域生活支援へと政策転換したが、未だ世界で抜きんでて病床数が多く入院医療中心のケアが続く状況である。また、地域で暮らす精神障害者のケアは家族による私的ケアに大きく依存してきた。さらに、精神障害者支援に携わる対人援助職もまた、共感疲労からバーンアウトに陥りやすい。持続可能なケアシステムを構築するためには、「ケアする/される」の二項対立を超えて、ユーザー・家族・専門職の三者協働によるコ・プロダクション(共同創造)を志す必要がある。 じゃがじゃがプロジェクトは、精神保健に関わるユーザー・家族・専門職が集い、対等な立場でケアしあう場として、2020年に誕生した。誰もがひとりぼっちにならないように。「つらいよ」「さびしいよ」「たすけて」と言えるように。専門職もまた、傷つき、悲しみ、悩みを経験することを恥ずかしいと考えず、仲間と分かち合えるように。孤独や挫折や喪失、メンタル不調の経験を、他者の傷みを想像し、手を差し伸べ合う力の源と捉える。 じゃがじゃがプロジェクトを始めた背景には、大切な仲間の死があった。精神科医の彼は、患者に粘り強く寄り添う臨床を行っていた。ところが、自身がメンタル不調を経験したとき、精神医療専門職であるがゆえにかえってサポートを受けづらく、孤独に療養せざるを得なかった。彼の死を受けて、私たちは、医療福祉専門職もまた傷つきやすい生身の人間であるのに、崇高な倫理的存在であることを求められがちであることに気づいた。彼の死後、彼が療養中にノートに綴っていた「じゃがじゃがプロジェクト」の構想を実現すべく、プロジェクトに賛同する仲間が集って取り組みを重ねてきた。 専門職を取り巻く文化や専門職倫理は、「自立した個人」を理想とする西洋近代男性主義的な自律観に基づいており、専門職(とりわけ医師)は、自身の弱さを露にしたり、他者に助けを求めたりすることを否定的に捉えたり、苦手とする傾向が強い。感情に左右されない落ち着きや、疲れや傷つきをコントロールして常に一定のパフォーマンスを発揮できるよう求められ、己を犠牲にしてまでの献身や優れた人格を期待されがちである。そのような状況の中、専門職は自分の感情を押し殺し、無頓着であることに慣れてしまう。 近年、「ケアする人のケア」や専門職の「セルフケア」の必要性が認知されるようになった。しかしながら、「セルフケア」が「自己管理能力」として理解されれば、専門職にさらなる負担を負わせる事態となりかねない。じゃがじゃがプロジェクトは、ユーザー・家族・専門職の複数の立場性を持つメンバーが、ともに学び、対話し、余暇を過ごしている。各自が自分を主語にして、自分の感情に意識を払い、素直な言葉を交換できる場となっている。そうして開示された自己を互いに承認しあう関係性の中で、互いにケアしあう場が実現していると言えよう。
ポスター⑤研究発表「日本の演劇におけるインクルージョンの現在地 ー聴覚障害者と聴者の協働に関する文献検討ー」
永杉理惠(東洋大学)、若林陽子(岩手県立大学社会福祉学部)、清重めい(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター )、久保田めぐみ(東京大学大学院教育学研究科修士課程)
【キーワード】インクルージョン、演劇、ろう者、手話、協働
【発表要旨】近年日本では、障害のある人による芸術活動が社会的に推進されるほどに発展している。他方、障害があるという属性を強調するかたちで作品の芸術的価値が見出されるとき、障害のある人の社会的疎外がかえって再⽣産される危険性があると、芸術学やアートマネジメントの観点から指摘されている。そこで本研究では、障害のある人もない人も共に参加する芸術活動を現状よりもさらに積極的に導入することを提案することを目指す。具体的には、障害のある人とない人が同じ空間で共にひとつの活動に携わるという意味でのインクルージョンの教育学的価値を強調する立場から、日本で聴覚障害者と聴者が共に創造し、鑑賞する演劇がどのように展開しているかについて文献から検討した。 まず、手話演劇の成立と展開の先に1990年代から今日までの展開を4つの時期区分:⑴第一次隆盛期:手話演劇の確立、⑵戦後期:手話演劇の深化、⑶第二次隆盛期(1970年代~1990年代半ば):表現の多様化、⑷聴覚障害者と聴者の協働の模索期(1990年代半ば~現在):協働による舞台表現・演者としての当事者、に分けて整理した。そこからは、手話演劇によってろう者独自の言語・文化による舞台表現が確立し深化する時代から、表現の多様性が生まれる時代を経て、ろう者と聴者が協働する表現の時代へと向かう流れが確認できる。また、一言にろう者と聴者の協働による演劇と言っても、手話を使うろう者の台詞を聴者が代読するものや、手話と発話でかけ合いをするもの、舞台手話通訳者が役者として登場するものなど、その協働の方法は多様であり、現在が舞台表現におけるインクルージョンのあり方が積極的に模索されているフェーズであることが確認できた。 また、舞台上だけでなく、鑑賞する立場・舞台裏への着目もなされている。鑑賞に関しては、聞こえない観客のために手話通訳や字幕を整えるだけでなく、情報保障という性質、すなわち合理的配慮という枠を超えて、情報保障のための手話を演劇表現のひとつと捉える試みも近年なされている。さらに、公演中の情報保障だけでなく、裏方すなわち稽古や制作途中におけるコミュニケーションの問題も指摘されている。 以上のことから、演劇における聴覚障害者と聴者の協働は、バリアを除去するというよりも新たな舞台表現を生成させ、聴覚障害者と聴者の共生社会を促している現状が明らかになった。今後は、inclusive theatre等その他の語をキーワードとする外国における状況も合わせて検討し、本研究におけるインクルージョンの意味を国際的文脈に位置づけ直す他、教育学的なインクルージョンの概念の意義と特徴を検討することも進めていきたい。
ポスター⑥研究発表「無鄰菴における日本庭園の意義発見のための作庭意図が鑑賞者に及ぼす影響の調査~日本庭園を通したケアの可能性の探索に向けて~」
城戸浩菜(九州大学未来創成科学者育成プロジェクト、大分県立大分上野丘高等学校)、長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究所)
【キーワード】日本庭園 作庭意図 空間意義 テキストマイニング 園芸療法
【発表要旨】背景 日本では、需要の低下や後継者の不足により伝統文化が衰退しつつある。しかし忙しい現代社会において、伝統文化が人々に癒しをもたらし、幸福感や豊かな感性の創出につながるともいわれている。本研究では、人々の日常生活と深く結びついた伝統文化の一つである「日本庭園」に焦点を当てた。政府統計によると、造園工事業の就業者数は2004年から2017年の13年間で約6割減少している。私は日本庭園が好きなので、この状況に危機感を覚え、日本庭園の継承につながる研究への関心を持った。また作庭意図を知ることにより、それまでと異なる視点でより深く鑑賞できた経験があり、本研究ではこの経験をもとに調査を行った。 先行研究 日本庭園の鑑賞によって心拍数が減少し、デザインの全体への分散とそれによって誘発される幅広い眼球運動がストレス減少効果の重要な要素となること。後期高齢者が対照地に比べて日本庭園の鑑賞時に、眼球運動や自律神経系が活性化することなどがわかっている。これらは日本庭園が人々の癒しになるということを裏付ける結果と言える。また、日本庭園の口コミの言語解析から日本人と外国人の感じ方の違いを考察した研究もある。 目的 これまでは日本庭園の受け手側のみを対象とした研究が多かったが、庭の作り手と受け手の双方にアプローチすることが重要であると考えた。本研究の目的は、鑑賞者がどの程度作庭者の意図を理解しているか、またそれによって受け取り方に違いは出るかを調査し、作庭意図が鑑賞者の体験にどのような影響を与えているかを明らかにすることである。 調査方法 まず京都を訪れ、事前ヒアリングとして現地の研究者や庭を管理維持している方々の見解や意図を収集した。その後、調査対象である無鄰菴のGoogleの口コミ約730件をテキストマイニング手法で分析し、庭園鑑賞者の受け取り方やその評価について考察した。 調査結果 事前ヒアリングでは、無鄰菴の作庭意図や、日本庭園の価値・効果を聞くことができた。 テキストマイニングでは、口コミの5段階評価との対応分析を行った。1や2といった低評価では、庭園そのものではなくスタッフの対応や料金などの外部要因が多く言及されていた。3以上の評価からは庭自体への言及が増え、4や5といった高評価においては、作庭意図や庭の歴史性に触れた記述が増えている傾向にあった。 展望 今後は、無鄰菴の関係者に再度お話を伺って質的社会調査法を用いた分析を行う。また、今回用いたテキストマイニング手法を異なる条件や分析方法で用いることで、口コミ情報による鑑賞者の評価を詳細に分析する。これらの分析結果を合わせて、鑑賞者の感じ方と作庭意図との関係を詳細に明らかにしていく予定である。 期待される効果 作庭者にとって自らの意図がどのように受け取られているかを知る一助となり、作庭意欲の向上や新たな工夫を促すことが期待される。また、日本庭園を通じたケアの可能性の議論がさらに深まることが予測される。
ポスター⑦研究発表「音楽療法のある医療現場 ―音楽療法士と医療従事者の相互作用に着目して―」
友貞愛里(九州大学未来創成科学者育成プロジェクト 佐賀県立致遠館高等学校)、長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究所)
【キーワード】音楽療法 病院 医療従事者
【発表要旨】研究背景 現在の日本の医療現場では、医療従事者の長時間労働の改善が叫ばれている(江原 2021)。その中、音楽療法に関心を持つ医者の数は多い(日経 2016)。日々の業務が多忙の中で音楽療法を導入している病院の実態を調査することで、音楽療法を医療現場で取り入れることの意義を考えるきっかけを作ることができると考えられる。 先行研究 先行研究を調査する中で、看護師が行う音楽療法や音楽療法に関わった音楽療法士の変化について研究が多く行われていることが明らかになったが、音楽療法を通した音楽療法士と医療従事者の関係性については、多くの研究結果では明らかになってはいなかった。本研究では先行研究では明らかでない、医療従事者を対象として音楽療法士との関係性を研究していくこととする。 目的 日常的に音楽療法が行われているA病院での、音楽療法士と医療従事者の立場の違いによる音楽療法への意識の共通点や相違点、それぞれの音楽療法の実施を通しての意識の変化の様子を明らかにする。 調査活動 この研究では主に、 ①音楽療法にどんな印象を持っているのか。 ②音楽療法が行われることで治療や生活、業務などにどんな影響があるのか。 ③音楽療法士と医療従事者でどのようなことでどのようなときにコミュニケーションをとるのか。 以上の3点において音楽療法士と医療従事者の意識を調査し、A病院の音楽療法の実態を明らかにする。 調査方式は、福岡県にあるA病院の緩和ケア病棟への見学と、そこで勤務している音楽療法士と医療従事者を対象としたアンケート調査である。 これまでの成果 8月7日に予備調査としてA病院緩和ケア病棟へ見学に訪れた。初めに、音楽療法士から特に緩和ケアにおいての音楽療法について詳しく話を聞いた。 次に、2人の患者に向けた音楽療法を見学した。談話室で患者の様子を見つつ、ピアノと歌の演奏が行われた。途中でトラブルが発生したときは、看護師が駆け寄ってきて対処している様子が見られ、看護師と音楽療法士の会話が生まれていた。普段は音楽療法が行われている間は、看護師が干渉する様子は見られなかった。 最後に、一対一の音楽療法では、キーボードを持って患者の病室に訪問して演奏を行っていた。音楽療法士と一対一であり看護師はその場にほとんどいないため、音楽療法士が患者の様子をより一層注視していた。 展望 今後は、アンケートの結果をもとにSCAT分析を行い、先行研究などと比較しながら研究を進めていく予定である。今回見学に行ったときは、医療従事者の中では看護師の様子しかわからなかったので、医療従事者の中で看護師以外の職種の人にもアンケート調査を行うことで、医療従事者がどう感じているのかを明らかにする。
ポスター⑧研究発表「ろう者の音楽体験の言語化を考える〜“目で見るおんがく”(サイン・ミュージック)の実践を通じて」
萩原昌子(九州大学芸術工学府)
【キーワード】ろう者の音楽 鑑賞サポート 音楽体験 言語化
【発表要旨】ろう者や聴覚障害者を対象とした音楽の鑑賞をめぐり、近年、欧米におけるポップスミュージックのコンサートにおける手話通訳や、ミュージックビデオへの手話通訳参加、字幕付与などの鑑賞サポートが話題になっている。また、日本フィルハーモニー交響楽団と落合陽一氏の「耳で聴かない音楽会」など、クラシック音楽の分野においても、聴覚障害のあるなしに関わらず楽しめるとされるコンサートが開催されている。 鑑賞サポートは合理的配慮として提供される手段の一つであり、提供する側と当事者側双方の建設的対話をもとによりよいサポートが構築されていく必要がある。これまで、ろう者や聴覚障害者に対する音楽の鑑賞サポートについては、歌詞の可視化のほか、音で構築される音楽を伝えるものとして音の増幅や振動への変換等の提供が行われてきた。 しかし、聴覚のみでは音を受容することが難しいろう者・聴覚障害者側が鑑賞するときに「どのように音楽を受け止めたいか」ということに関して、これまでほとんど言語化されてこなかったのではないか。 一方で、2016年に上映された「LISTEN」という映画は、音のない世界にろう者・聴覚障害者にとっての“音楽”が存在するというひとつの提案を示した。また、アメリカやカナダでは、Jody Cripps氏が提唱する「目で見る音楽」としての「Signed Music(サイン・ミュージック)」という概念のもと、Signed Musician(サイン・ミュージシャン)と呼ばれるろうの音楽家も存在する。 本発表では、このサイン・ミュージックについて、カナダで開催されているDeaf Arts Academyで学ぶ機会を得た発表者の実践をもとに、ろう者・聴覚障害者にとっての“音楽”の概念がどのようなものであるかを考察し、ろう者の音楽の受け止め方の言語化に向けた一助とすることを目的とする。 サイン・ミュージックは手話をベースにして音のない音楽を奏でる手法であり、ろう文化を背景にして成立したものである。先行研究では「音によって構成されるいわゆる聴覚文化としての音楽の形をとらなくとも、“音楽”を感じることができる」という視点から、サイン・ミュージックはリズム、音色、質感、メロディ、ハーモニーという「音楽の5要素」を持ちうるとしており、それぞれの要素についての分析が進められている。このことは、音によって構築される音楽について、ろう者として望む音楽体験を言語化するための語彙の手がかりにつながると考えられる。 本発表では、サイン・ミュージシャンへのインタビュー等から、(1)サイン・ミュージックではなにを音楽として表現しているか(2)どのように音楽を構成しているかを分析し音のない音楽の表現や鑑賞にあたって、なにをどのように音楽として受け止めているのかを整理することで、特にろう者の音楽の受け止め方について言語化を試みる。 これにより、音楽を鑑賞することを希望するろう者・聴覚障害者にとって、それぞれに寄り添いかつ充実した音楽体験の実現に向けた、双方向からの建設的対話の場につなげることを目指す。
ポスター⑨研究発表「障害のある人と学生との協働によるプロジェクトの企画プロセスに関する研究-アート・デザインに取り組む福祉施設と芸術系大学との連携を事例に-」
GUOYUTING(九州大学芸術工学府長津結一郎研究室)
【キーワード】協働
【発表要旨】障害のある人と学生との協働によるプロジェクトの企画プロセスに関する研究-アート・デザインに取り組む福祉施設と芸術系大学との連携を事例に- 研究背景と目的 共生社会の実現に向けて、障害者と健常者が文化的に対等な立場で相互理解と尊重に基づく関係を築くことが重要である。(寺田 2001) これまでの研究では、共同活動の参加により、障害者と健常者が相互理解を深め、多様な意識を生み出すことが議論されてきた。また、障害者と大学生の共創的な活動を通じて、他者に対する関心やコミュニケーション能力が障害者に対する意識の変化を促す可能性が報告されている。(槇原 2023) 一方、障害者と学生が共同で活動に参加する際、障害者との接触経験が不足しているため、学生はどのように接すればよいか不安を感じることも多い。(松本ら 2023) こうした背景を踏まえ、本研究は、障害者と健常者の協働プロジェクトの企画において考慮すべき要素を明らかにすることを目的とする。特に、障害者と学生の協働プロセスを促進または阻害する要因を分析し、今後のプロジェクトにおける企画フレームワークを提案する。 研究方法 本研究では、障害者福祉施設と九州大学が協力したプロジェクト「デザインの視点から障害者とともにすごす」を事例に、大学生と福祉施設Aの利用者およびスタッフが協働して地域向けの活動アイデアを提案・実施する取り組みを分析した。全9回の授業では、前半に自己紹介や散歩を通じて共に時間を過ごし、後半に地域住民を楽しませるためのアイデアを障害者と学生が共に考えた。 本研究は、以下の2つの問題を解決することを目的としている。 問題1:障害者と健常者の協働プロセスにおける阻害要因は何か? 問題2:協働を促進するための適切なプロセスは何か? 問題1に関しては、参与観察と事後調査の質的研究法を用い、コミュニケーションの視点から授業全体を振り返る。問題2については、参与観察とインタビューを通じてデータを収集し、各プロジェクトの構築方法やプロセス中の困難、克服方法を分析する。 アンケートの研究結果 アンケート結果はKJ法により分析され、参加者の回答から、コミュニケーションの問題が協働を妨げる主な要因であることが明らかとなった。コミュニケーションの不安:多くの参加者が、初対面や初期段階でのコミュニケーションに不安を感じていたことがわかる。学生Aは「相手が何を考えているのかわからない」と不安を抱え、学生Bも言葉でのコミュニケーションが難しい状況に戸惑いを感じている。利用者Aは、普段学生と交流する機会が少ないため、不安を感じており、その結果、初めは自分の内面的な感情を表現できなかった。対等な交流を妨げると感じる:利用者と学生の双方は、障害者と健常者の間に壁が存在すると認識しており、この意識が交流における不安感を増加させている。学生Eは、社会において理解しやすい「違い」のみに焦点を当てる雰囲気が至る所に存在していると考えている。この現象は、障害の概念や意味を形成している。 「障害」という概念:学生Eは、言語によるコミュニケーションが中心になる社会の中で、言葉が伝わらないことでコミュニケーションが難しくなる状況を指摘している。さらに、言語には暴力性があり、相手を疎外する可能性があることにも気づいている。学生Cは、授業の中での「先生と学生」「先輩と後輩」といった立場の違いが、対等な交流を妨げていると感じていた。このような役割分担が、参加者同士の交流を阻害する要因となることが見受けられる。 考察と結論 本研究を通じて、障害者と健常者の協働プロセスには、初対面や初期段階でのコミュニケーションの不安が大きな阻害要因となることが確認された。また、障害の概念や立場の違いも対等な関係構築における課題となりうる。これらの課題を克服するためには、事前の交流促進活動や、役割を超えた対話の場を設けることが有効であると考えられる。 今後、障害者と学生の協働プロジェクトの企画においては、相互理解を深めるための交流の機会を増やし、立場の違いを意識させない柔軟なプログラム設計が必要である。本研究で得られた知見を基に、より多くの人が対等に参加できるプロジェクト企画のフレームワークを提案することを目指す。
ポスター⑩研究発表「演劇ワークショップが特別支援教育の現場にもたらすものとは──特別支援学校における自立活動としての演劇ワークショップを事例に」
波田光咲(九州大学芸術工学部長津研究室)
【キーワード】演劇ワークショップ 特別支援学校 自立活動
【発表要旨】本研究は、福岡県内の特別支援学校で行われた演劇ワークショップをリサーチフィールドとし、ワークショップに参加した教員に対して調査を行い、演劇ワークショップが特別支援学校という教育の場にどのように貢献したのか明らかにすることを目的とする。 本ワークショップは「自立活動」という特別支援教育特有の教科を枠組みとして行ったことが特徴である。自立活動とは文部科学省の指導要領によると「個々の幼児児童生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服しようとする取組を促す教育活動」とされている。しかし、その具体的な内容は定められていないことで生徒の実態把握・計画・実施を全て教員に任されていることから、どのように自立活動を進め方について悩む学校・教員も多いのが現状だ。(分藤ら,2024) 今回の演劇ワークショップでは、教員は参加者として関わり、さらに自立活動として進める上でコーディネーター・アーティスト・教員で打ち合わせを重ねている。自立活動に関する背景を踏まえつつ、進めていく中で教員は今回のワークショップを自立活動としてどう捉えているのか、また、自立活動という枠組み外で他教科や日々の学校生活に影響を与える点があったのかを明らかにし、本研究が今後特別支援学校の現場で演劇ワークショップを行う際の学校側とコーディネーター側の共通言語の1つになるを目指している。 調査としては、まず全4回のワークショップ終了後に対象であった高等部1年生の教員11名にアンケートを実施した。内容は【教員自身がこれまでに行ってきた自立活動との違い】【演劇ワークショップと指導要領で定められている自立活動の内容の重なり】【自立活動に関する悩みについて】【自立活動を通して生徒に身につけて欲しいこと】とした。アンケートの結果より、まず、自立活動を通して生徒に身につけて欲しいことは教員によって非常に様々であることが分かった。自立活動としての演劇ワークショップについては、全教員が内容は指導要領上では自立活動と重なる部分があると考えているが、 これまで教員が行ってきた自立活動とは、計画方法・授業の進め方が異なっており、内容としても「これまでの経験を踏まえて教員が自立活動を通して生徒に学んで欲しいと考えていること」とはやや異なっていることが分かった。また、自立活動に関する悩みも様々であり、日常的に自立活動を行う上での課題については演劇ワークショップによって解消することは難しかった。 アンケートから、演劇ワークショップは指導要領的に自立活動に当てはめることはできたが、共に授業を作り、参加した教員が「自立活動を行った」という実感は得られなかったということがいえる。 今後は、関係者全員で行った振り返りの内容やアンケートから示唆される自立活動以外の教育活動や日々の学校生活への影響はあったのか、ということを教員へのインタビューを通して明らかにしていく。
⑪実践報告「出張こども食堂2024 能登半島地震応援グッズデザイン」
広根礼子(金沢学院大学)
【キーワード】こども食堂 ワークショップ デザイン
【発表要旨】こども食堂の認知と充足率の向上を目標とした デザインとワークショップの実践報告 2023・2024 金沢学院大学ヒロネゼミ 連携:おおくわこども食堂・かなざわっ子nikoniko倶楽部 <活動の背景> あなたの地域に子ども食堂はありますか? こどもの居場所や地域の交流の場として、こども食堂は近年ますます重要性が高まっている。 こどもがこども食堂に1人で歩いて行ける距離を考慮すると、小学校区に1か所、こども食堂が存在していることが理想である。2023年度こども食堂全国調査において、石川県のこども食堂数は88か所であった。県内の小学校203校のうち、校区内にこども食堂があるのは67か所(前年40か所)、充足率は33%(前年20%)となった。2023年度から調査方法が変わり、不定期開催のこども食堂も数えられたために急増したようにみえるが、定期的に開催しているこども食堂が増加したわけではない。 2023年度に引き続き「出張こども食堂」の開催、新規設立および活動継続の後押しをすることで、充足率の向上につなげたい。 <活動内容> 2023年度は以下の活動を行った。 ・こども食堂の認知向上につながるポスターやリーフレットの企画・制作 ・出張こども食堂開催時に使用するバナーや活動ユニフォーム等、PRグッズの制作 ・出張こども食堂に同行し、アートワークショップの開催 2024年度は、 能登半島地震により、被災地のこども食堂は開催が困難な状態となり、県内のこども食堂の状況は大きく変化している。そこで、このような困難な状況と不安を抱えた生活を余儀なくされている被災者および2次避難者を対象に、こども食堂が精神的な拠り所となる事を願って支援活動を行う。 元々、能登地域にはこども食堂が少ない(珠洲市はゼロ)。そこで、被災者および2次避難者に対して、一緒に集うあたたかい居場所として「出張こども食堂」を開催し、自分の地域にも、このような場があったらいいなと感じてもらいたい。数年後の復興を見据えて、能登地域のこども食堂再建と新規立ち上げに繋げる活動に対して、引き続きゼミの特性をいかして貢献したい。 本活動は、石川県大学コンソーシアム石川 地域課題研究ゼミナール支援事業に採択授業として行っています。
⑫実践報告「障害こども食堂の認知と充足率の向上を目標とした デザインとワークショップの実践報告 2023・2024」
広根礼子(金沢学院大学)
【キーワード】こども食堂 デザイン ワークショップ
【発表要旨】こども食堂の認知と充足率の向上を目標とした デザインとワークショップの実践報告 2023・2024 金沢学院大学ヒロネゼミ 連携:おおくわこども食堂・かなざわっ子nikoniko倶楽部 <活動の背景> あなたの地域に子ども食堂はありますか? こどもの居場所や地域の交流の場として、こども食堂は近年ますます重要性が高まっている。 こどもがこども食堂に1人で歩いて行ける距離を考慮すると、小学校区に1か所、こども食堂が存在していることが理想である。2023年度こども食堂全国調査において、石川県のこども食堂数は88か所であった。県内の小学校203校のうち、校区内にこども食堂があるのは67か所(前年40か所)、充足率は33%(前年20%)となった。2023年度から調査方法が変わり、不定期開催のこども食堂も数えられたために急増したようにみえるが、定期的に開催しているこども食堂が増加したわけではない。 2023年度に引き続き「出張こども食堂」の開催、新規設立および活動継続の後押しをすることで、充足率の向上につなげたい。 <活動内容> 2023年度は以下の活動を行った。 ・こども食堂の認知向上につながるポスターやリーフレットの企画・制作 ・出張こども食堂開催時に使用するバナーや活動ユニフォーム等、PRグッズの制作 ・出張こども食堂に同行し、アートワークショップの開催 2024年度は、 能登半島地震により、被災地のこども食堂は開催が困難な状態となり、県内のこども食堂の状況は大きく変化している。そこで、このような困難な状況と不安を抱えた生活を余儀なくされている被災者および2次避難者を対象に、こども食堂が精神的な拠り所となる事を願って支援活動を行う。 元々、能登地域にはこども食堂が少ない(珠洲市はゼロ)。そこで、被災者および2次避難者に対して、一緒に集うあたたかい居場所として「出張こども食堂」を開催し、自分の地域にも、このような場があったらいいなと感じてもらいたい。数年後の復興を見据えて、能登地域のこども食堂再建と新規立ち上げに繋げる活動に対して、引き続きゼミの特性をいかして貢献したい。 本活動は、大学コンソーシアム石川 地域課題研究ゼミナール支援事業に採択され行っています。