オンライン・ゆる輪読会(2024年3月7日開催)のレポート記事です。ぜひ、お読みください。
(アートミーツケア叢書第3巻)「『いろいろなことがあるけれど、すべて私の人生』と思えるようにートラウマインフォームドケア」
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兵庫県尼崎総合医療センターの産婦人科医師・田口奈緒さんと、画家・高濱浩子さんのインタビュー「『いろいろなことがあるけれど、すべて私の人生』と思えるようにートラウマインフォームドケア」の輪読会を開催しました。
お二人は、田口さんが2018年から病院で始めた「トラウマインフォームドケアプログラム(アート、ヨガ、音楽)」で協働されています。
《トラウマインフォームドケア(Trauma Informed Car:TIC)とは》
インフォームドとは「理解している・前提にする」という意味であり、TICは「トラウマの影響を理解した配慮ある関わり(ケア)を指す。
(中略)
TICは、公衆衛生的な知識に基づく関わりを指し、トラウマケア全体の基盤に位置付けられるものである。
“Informed(基本的理解)”のレベルは、トラウマの有無に関わらず、全ての人を対象とする。(引用:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000593579.pdf )
輪読会の司会は女子美術大学の野呂田理恵子さんと美術待合室/国立アートリサーチセンターの中野詩さん。
参加者のみなさんには会が始まる前にZoomの名前をニックネームに変えてもらい、ニックネームに合ったジェスチャーを考えてもらいました。
アイスブレイクの時間になぜそのニックネームにしたのか、簡単な自己紹介、なぜそのジェスチャーにしたのかをお話ししてもらい、紹介されたジェスチャーを参加者のみなさんで一緒にやりました。ジェスチャーをすることで、初対面のみなさんの空気も和んでいきました。
(今回の参加者の方のニックネームは「りえぴょん」「うさちゃん」「しろくまのおへそ」「ハート」「さっかく」でした。やり取りはこちらのニックネームで記載しています。)
今回のゆる輪読会は、この、「3 “シェア” アンケートを著者にもシェアすること」が醍醐味のひとつ。書籍の著者が読者からのフィードバックを得る機会はありそうで、実はあまりないことです。学会内には運営を進めていくための色々なチームがあるのですが、このイベントは、学会内外を問わずアートとケアに興味がある人の交流を促し深めることを目的とする、「交流促進チーム」による運営でしたので、そのような趣向となりました。
ーーゆる輪読会で話されたことーー
《ゆる輪読会で使用した書籍について》
田口さんと高濱さんの対談形式の文章で、兵庫県尼崎総合医療センターで行われているトラウマインフォームドケアプログラム(以下、TICプログラム)についてのお話をされている内容になっています。
TICプログラムの目的は言葉によるカウンセリングではなく、ヨガやアート音楽で楽しみながら心と身体を癒すこと。参加者は主に産婦人科に入院中・通院中の患者さんや、がん支援サロンの参加者など。高濱さんはアートの活動で関わられています。
流産・死産を経験というトラウマとなるような経験をした方、またその現場に関わる医療従事者が辛い気持ちを外に出したり共有したり、受け止めたりする機会がないまま日常の中に戻っていく現状に、もう少し自分の「辛かった」という気持ちを出す場があった方がよいのではないか、という思いから始めた活動とのこと。
その活動の事例を交えながら、TICプログラムについてその想いが語られた全6章の文章です。
1ページごとくらいで交代しながら輪読していきました。読んだ人は次の人をニックネームのジェスチャーと共に指名します。章ごとに気になること・感想・思い出したことなどを共有していきました。
※各章のタイトルは書籍からの引用ではなく、今回の「ゆる輪読会」解説を含んだものになっているとのこと
<01〜02章 トラウマインフォームドケアの紹介(対象者の幅)、ケアとセーフスペース>
りえぴょん:「セーフスペース」というワードが気になった。
しろくまのおへそ:自分もオノマトペやアートを通したケアの実践をしていて、心の安全を保つ塩梅が難しいと思うことがある。
うさちゃん:イギリスで調査をしていた折に、トラウマのあるインタビュイーが話をし過ぎて気分が悪くなり、傾聴しすぎても良くないんだと思った経験がある。
しろくまのおへそ:「オノマトペ」は触れすぎそうになった時にちょっとそらしたりできる
<03〜04章 絵を描く具体的な進め方、運営者の振る舞い>
りえぴょん:00が「気配」なんだなと。
さっかく:気づくこと、話すことまでで良い、ということ。気づくこと、話すこと、出すことが大事ででもそれが難しい、ということなのかな、と。
うさちゃん:トラウマの回復に必要な要素の一つに、ご本人がまず「気づく」ということが大事だそう
りえぴょん:気づいて受け止める。受け止められるまで待つ、待つための場所という感じがした。
<05章 癒しでも治療でもない「中間」>
りえぴょん:癒しでも治療でもない「中間」だと。イギリスのこども病院で学んだ際、アートマネージャーが「アートをしない、という選択をさせるのもアート活動の大事な一つだ」と言われた。そのお話しと通ずるところがあって大事にしているところは同じなんだなと思った。
自己選択ができるということは、人間らしさを取り戻せる。
しろくまのおへそ:「患者や病人じゃなくて、〇〇さんという人間に帰れる」というところに共感。生活者としての自分に戻っていくことが回復に大切だと思っている。
うさちゃん:メンタルヘルスのケアでは、健康と不健康はぱっきり分かれておらず、それは連続していて、人はその間を行ったり来たりしているという考え方がある。患者の主観を大切に扱う話を精神科医やカウンセラーから聞いたことがある。そうした考えを田口先生も大事にされているように感じた。
<06章 TICプログラムを受けた人の「回復」>
うさちゃん:「回復」の定義が立場によって異なるんだなと。元の地点に戻るのではなく、今の時点で起きたことを当事者がどうにか受容していく、そのサポートを医療従事者がしているんだなと。『わたしたちの精神疾患』という当事者たちが書いた本があり、本当の意味での回復は、他者から見た「元に戻ること」ではなく、当事者それぞれの主観性が大事ということが書かれていた。
りえぴょん:「回復」という言葉の受け止め方が重要であることを知った。TICプログラムは「回復」につながりやすくなるものとしてやっているのか?
うさちゃん:TIC= Trauma Informed Careとは、トラウマについての知識や対応を学び、支援する相手にトラウマがあるかも、という視点をもって接すること。How toではなく、誰もが厳しい体験をしているという考えのもとにある。
ハート:新しくいろんなことが入ってきた状態にある。改めて本を読むのを楽しみにしている。しろくまのおへそ:「種蒔き」という言葉。これは無力感も込めた言葉なのかなと。アートが万能ではないことを分かりながらも願いを込めて種を蒔き続けたいという想い。そこに共感した。うさちゃん:私はTICについて一通り学んでいるのですが、非専門家なりにできることがあると感じた。それを医療者側も必要としていることが今まで腹落ちしていなかった。
さっかく:産婦人科で行われていることがすごいことだと感じた。精神的に安全な場所を確保できるということの大切さを感じた。医療従事者の方にとってもその時間を持つ必要がありながらもどうやったらその時間を持てるのかという難しさを考えさせられた。
参加者のみなさんそれぞれに、ご自身が取り組まれている活動があって、今日の書籍の内容が身近にあったり、これから、という方もいらっしゃったりでしたが、輪読して言葉を交わすことで、一人で書籍から汲み取る以上にぐっと情報が深まったり広がったりする時間でした。
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アートミーツケア叢書3
『いろいろなことがあるけれど、すべて私の人生』と思えるようにートラウマインフォームドケア
『受容と回復のアートー魂の描く旅の風景 』
アートミーツケア学会【編集】
ほんまなほ【監修】
中川 真【責任編集】
[定価] 本体2,000円(税別)
[ISBN]978-4-86500-129-7 C0036
[判型]A5判並製
[頁数]226頁
[出版社]生活書院 (2021/6/12)
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