NEWS / 2022/12/2

2022年度大会 発表要旨(プレゼンテーション/ポスター発表)

発表要旨(プレゼンテーション)

9:30-11:30 (S棟教室)
※プレゼンテーションは複数の発表が同時並行で進行します。

場所 A (S棟102教室) B (S棟105教室) C (S棟106教室)

時間 ①9:30~10:00 ②10:00~10:30  ③10:30~11:00 ④11:00~11:30  全体討論

プレゼンテーションA (S棟102教室)-①9:30~10:00 実践報告「医療型障害児入所施設・療養介護施設におけるアート&デザインプロジェクトの実践報告」

宮坂 真紀子(北里大学医療衛生学部特別研究員, 女子美術大学非常勤講師)

【キーワード】重症心身障害児(者) 療育 アート&デザイン プロジェクト well-being

【発表要旨】

本発表は医療型障害児入所施設・療養介護施設である東京都の心身障害児総合医療療育センターにおいて2022年4月より実施した「つながり、つながるプロジェクト」に関する実践の内容やその結果について報告する。 心身障害児総合医療療育センターは、外来療育部門の他に子供たちのための施設である整肢療護園と成人のためのむらさき愛育園があり、施設では療育の理念に則った治療・教育の他にも障害の受容をサポートするといったことから被虐待児の保護までその役割は多岐にわたる。入所者の多くは重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した重症心身障害児(者)である。上記施設では日常的に様々な創作活動が実施されており、施設内には彼らの作品が所狭しと飾られているエリアも少なくない。そのような環境の中で、本プロジェクトは施設利用者という共通点を有する患者・家族・職員にとってのwell-beingについて考え、持続可能な形でのアート&デザイン活動の在り方について実践を通して模索していくことを目的に有志の参画希望者を募り実施したものである。今回は筆者を含む教員2名、大学生6名、施設職員7名が中心メンバーとなり、新型コロナウィルス感染症対策により外部との接触が困難となった状況下で希薄となった外の世界とのつながりを感じたり、こころがつながる喜びを分かち合いたいという気持ちを込めて「つながり、つながるプロジェクト」と題し、創作活動や制作ツールのデザインなど継続的な実践を視野に入れた活動を行った。プロジェクトでのワークショップは、当初は各部門と合同での実施を予定していたが、感染症対策として、8月にむらさき愛育園、9月に整肢療護園、10月にオータムフェスティバルといったように時期をずらしての実施となった。 同施設ではこれまでにも様々なアートプロジェクトが実施されてきた経緯があるが、本プロジェクトの企画はそれらをそのまま踏襲するものではなく、改めて施設でのアート&デザインについて考えて議論し、一人ひとりの参画者が主体的に企画立案することを目指して行った。その結果、職員からはこれまでに実施してきた活動から更に発展することができたという感想や、利用者さんのいつもと違った行動に良い意味で驚いたなどの新たな気づきを得ていたことが確認された。学生においては、これまでは気づかなかった日常生活の中にある環境デザイン的な課題や社会問題に目が向くようになったという変化も見られた。これらの感想や変化からは、協働プロジェクトに対する主体的な参画が大小様々な行動変容をもたらしたことが推察される。本発表では一連のワークショップにおける創作活動の様子をメインに紹介するとともに、参画メンバーの意識の変化も含めて紹介していきたいと考えている。

プレゼンテーションA (S棟102教室)-②10:00~10:30 実践報告「「治療」なのか、「癒やし」なのか? ~医療におけるアートの役割を考える~」

田口奈緒(兵庫県立尼崎総合医療センター)、高濱浩子

【キーワード】トラウマインフォームドケア、オンライン、妊娠、入院

【発表要旨】

高度急性期医療をうたう病院において、医療の中での心理的トラウマに対して十分に対応できていない現状がある。我々は2018年から患者とその家族、医療スタッフに対してアートやヨーガ、音楽で心理的トラウマを表出する「トラウマインフォームドケア・プログラム」を実施している:「アートによるトラウマインフォームドケアの試み -トラウマが与える影響を可視化する-」アートミーツケアオンラインジャーナル Vol.12/2021  2021年からはアートやヨーガでの患者の語りに表れた妊産婦のトラウマ体験を医療者にフィードバックし、ケアに反映する研究に着手している。この研究は患者の心理的トラウマに配慮したケアによって、患者のメンタルヘルスを回復し医療者との信頼関係を醸成することを目指すものである。 新型コロナウイルス感染症予防のために2020年4月から外部者の病棟立ち入りが禁止となったため、現在は産科病棟の入院患者に対してZOOMを用いたオンラインでアートまたはヨーガプログラムを実施している。本発表では、産科病棟における入院患者に対するオンラインアートプログラムの実際と課題について報告する。 2021年9月から2022年3月まで産科病棟に入院した患者に対し、アートプログラム8例、ヨーガプログラム14例を実施することができた。しかし産科病棟の特性として、患者の急変や入院期間の短さから、週1回の実施で予定の3回を完遂できたのはそのうち9例(アート6ヨーガ3)であった。アートプログラムを実施した患者(Kさん)のPOMS2およびフェーススケールの結果、アート作品とその際の語りを提示する。 Kさん (28才 初産):妊娠29週より妊娠高血圧のため入院し、血圧コントロール不良のため分娩誘発を行い36週5日で出産となった。分娩は胎児機能不全のため、グレードAカイザーと呼ばれる超緊急帝王切開であった。入院中4回、退院後1回アートプログラムに参加し、インタビューにも協力頂いた(公表は本人の許可を得て行う)。 気分を評価する質問紙法であるPOMS2をプログラム初回実施の前後と1週間後に記入してもらった。初回前、初回後、1週間後のTMD得点はそれぞれ63、-2,10であり、アート実施後は明らかに気分が改善しており、その効果は「緊張ー不安」以外は1週間後も持続した。 産科病棟における入院患者は、自身の病状と児の予後につねに不安と緊張を感じている。さらに新型コロナウイルス感染症により家族とも面会ができなくなり、患者同士も会話を交わすことが少なく、しめきったカーテンの内側で孤立と孤独のさなかにある。アートプログラムはオンラインという制約はあるが、週に一度、マスクを外してアーティストとアシスタントとともに絵を描きながら「患者」ではなく「人」として時間を過ごすことの効果がその語りから推察された。さらに医療スタッフもともに絵を描くことで、患者との距離が縮まり、看護する-されるではない平場の人間関係が構築されたと考える。

プレゼンテーションA (S棟102教室)-③10:30~11:00 研究発表「ホスピタルアートは学生の共感力に良い影響力があるか」

森口ゆたか(近畿大学文芸学部文化デザイン学科)、池田行宏

【キーワード】ホスピタルアート、医学教育、共感力

【発表要旨】

【背景・目的】 「医学はサイエンスに基礎づけられたアートである」と言われて久しいが、現状、日本の医学教育においてアート分野の教育は十分に実践されていない。2000年代より欧米を中心としてアート教育が医学教育分野にも導入され、その教育実践についての報告がなされている。2019年現在、米国ではすでに約70の医学部で「ビジュアルアート教育」が導入されている。その教育手法は他学部と協働で実施、描画トレーニングも取り入れられ、多様に実施され、「観察・診断力の向上」「共感力」「コミュニケーション」「ウェルネス」「感受性」といった医師に必要な能力を涵養するとされている1) そこで、今回の報告では本邦初となる「ホスピタルアート」を冠した授業を実施し、学生の共感力への効果があるか、また、その後に実施されるプロフェッショナリズム教育に影響があるか、検証することを目的とした。

【方法】 2022年度医学部1学年の学生で、「ホスピタルアートによる患者ケア」という授業を実施。この授業を選択した学生、しなかった学生全員に、多次元共感性尺度、Jefferson Scale of Physician Empathyを用いて、共感力を測定し、その後のプロフェッショナリズム教育にどのような影響があるか検討した。

【結果・考察】 1学年113名中22名がホスピタルアートを受講した。多次元共感性尺度は授業終了後9月に1回、Jefferson Scale of physician Empathyは新入生当初、と9月プロフェッショナリズム授業開始前(9月12日)、プロフェッショナリズム受講後(9月22日)の3点で測定した。 多次元共感性尺度では「相手を批判するときは,相手の立場を考えることができない。」「人が頑張っているのを見たり聞いたりすると,自分には関係なくても応援したくなる。」「他人の感情に流されてしまうことはない。」といった項目で、ホスピタルアート受講者の成績が良かった。 Jefferson Scale of physician Empathyは3回の測定すべてにおいて、統計的有意差は認められなかったものの、ホスピタルアート受講者の得点が高かった。特に9月、プロフェッショナリズム授業開始時の両者の差は開いており、ホスピタルアートの受講や経験が、プロフェッショナリズムの授業を受講する際の心構え(レディネス)に好影響があることが示された。 今後、学生をフォローしていき、短期的影響だけではなく、長期的効果も見られるか検討していく。

【参考文献】 1) Mukunda N, et al. Medical Education ONLINE, 2019; 24

プレゼンテーションB (S棟105教室)-①9:30~10:00 研究発表「絵本関連ワークショップの実態調査および社会的・創造的実践の提案」

寺島知春(東京学芸大学)

【キーワード】絵本、ワークショップ、傾向、協働、創造

【発表要旨】

わが国における絵本関連ワークショップの実施状況を調査し、その結果に基づいて、新たな絵本関連ワークショップの例を試験的に実施した。ここでは、その調査結果とともに、癒しの要素を含む目新しい実践の様子について報告する。なお、本研究は、2020年に公開した研究ノート「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」の内容を前提とするものである。  実態調査では、絵本関連ワークショップの過去の実施例がまとまった場として、3つのデータ群にあたった。1点めは、国立国会図書館国際子ども図書館の公式ウェブサイト上に開示された、該当館における過去のイベント実施記録ページであった。これは、公的機関における絵本関連ワークショップの実施状況を把握するための材料であった。2点めは、NPO法人CANVASの公式ウェブサイト上に調査期間中に開示されていた、該当法人における過去のワークショップ記録ページであった。これは、民間の一団体における絵本関連ワークショップの実施状況を把握する材料であった。そして3点めは、同じくNPO法人CANVASの公式ウェブサイト上に調査期間中に開示されていた、該当法人に関連する過去のワークショップ記録ページであった。これは、民間で広く行われている絵本関連ワークショップの実施状況を把握する一材料であった。

上記の3点のデータ群について、絵本関連ワークショップの実施状況をそれぞれ表にして検討してみると、3者には明確な違いがあることがわかった。すなわち、国立国会図書館国際子ども図書館の群では、表の4象限のいずれにもおおむねバランスよく実施があった。CANVAS独自の開催群では、ほとんどの実施例が「個人・創造」の1象限に集中していた。CANVASに関連する開催群では、実施例は「個人」寄りの象限に偏っており、「社会」寄りにはほとんど実施例が見られなかった。これらの結果を俯瞰して、日本での絵本関連ワークショップでは「社会・創造」の要素をもつものがほとんど手つかずであると結論づけた。

実態調査の結論を軸にして、まだ実施例の少ない、新しい絵本関連ワークショップの例を試験的に模索した。それは、「社会・創造」の要素をもつ実践例を意味した。この試行は、途中に新型コロナウイルス感染拡大という社会状況をはさみ、複数回にわたって行われた。最終的に、オンライン上のワークショップにおいて、人々が個々の気持ちを共有し合い、画面上であってもお互いに相手のぬくもりを感じとる様子が観察された。このことは、身体的距離を保たねばならない困難な社会状況においても、いまだ実践数の少ないタイプの絵本関連ワークショップが大きな可能性を秘めていることを示すだろう。

プレゼンテーションB (S棟105教室)-②10:00~10:30 実践報告「健康の社会的決定要因から考えるアートワークショップのあり方 ― 地域高齢者を対象とした「からだで気づく!ワークショップ」の実践から―」

山田カオル(やまがたワークショップ研究会 山形県立保健医療大学)、佐々木加奈子(東北大学大学院 情報科学研究科)

【キーワード】健康の社会的決定要因 アートワークショップ 地域高齢者

【発表要旨】

1.はじめに 研究者らは、2021年から山形県天童市内の地域包括支援センター(以下センター)の高齢者カフェ利用者を対象にダンスアーティスト2名による身体系ワークショップを定期的に実践している。コロナ下で数回中止を余儀なくされたが、2022年7月に再開することができた。本報告では、このワークショップの実践を健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health 以下SDH)の観点から分析し、地域高齢者を対象にしたアートワークショップのあり方を探る。

2.ワークショップの概要 このワークショップでは、ダンスアーティストをファシリテーターとして、お祭りを連想させる音や道具を使用し、参加者の自由な表現や動きを引き出すプログラムを実施している。身体感覚を通して参加者自身の身体の可能性や他者との関係について関心を高め、参加者が主観的健康を実感できることをねらいとしている。これまでの開催では、会場は参加者の生活圏内にある地区公民館を利用していたが、今回は、感染予防、熱中症対策のため、市内にあるホテル内の大宴会場で開催し、会場変更に伴い複数の地区の合同開催とした。

3.調査方法 ワークショップ終了後、運営スタッフ(センター職員2名、講師2名、ボランティア3名)に非構造化グループインタビューを行い、内容を質的に分析した。

4.結果 インタビューでは、運営スタッフからみた参加者の反応として「ワークショップが再開できたことを喜んでいた」「前回と比較してより積極的に楽しもうとする姿勢」「講師の二人を覚えていて再会できたことを喜んでいた」「次も楽しみ」「違う地区の人たちとの交流を楽しんでいた」等、積極的な表現や笑顔、手拍子などが見られた様子が語られた。 開催場所変更については「場所が変わったことで特別感を味わえた」「バスで送迎したことでお出かけ気分になれたのでは」等のポジティブな印象がある一方で、「ホテルが広いのでトイレから戻ってくれなくなった参加者がいた」「終了後、大浴場での入浴も提案したが入りたがらず」等のネガティブな面も確認された。また、「久しぶりに会った参加者が杖をついていた」ことから「コロナ下であっても高齢者にとっては、外出すること人と交流することが大事」であることがスタッフ間で確認された。

5.考察 結果から、本ワークショップが参加者の主観的健康の実感だけでなく、身体活動や他者との交流の機会となっており、社会的健康にも寄与していたことが明らかになった。今後も、感染予防等に十分配慮しつつ、本ワークショップを地域の定期的な活動として位置づけることで、地域高齢者の身体・心理・社会的健康の維持向上に資するアートワークショップとしていきたい。

プレゼンテーションB (S棟105教室)-③10:30~11:00 研究発表「社会包摂に向けた障害者の芸術活動をめぐる議論の動向 ―プロセスと関係性に焦点をあてて―」

髙石萌生(九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻 長津結一郎研究室)

【キーワード】芸術、障害、社会包摂、文化政策、関係性

【発表要旨】

日本の障害者福祉において社会包摂を目的とした芸術活動が盛んに実施されてきたが、その中では完成した「作品」だけでなく、創作のプロセスや創作を行う障害者がその周囲の人々ともつ関係性にも目を向けるべきとする議論が存在してきた。そこで本研究は、日本の障害者福祉における芸術活動に関して、提起されてきた問題点に対するプロセスや関係性の位置づけを明らかにし、その議論の現状と今後の展開について検討することを目的とした。

本研究では、日本の障害者福祉施設において社会包摂を目的として行われる芸術活動についての問題提起を含む学術論文を先行研究として収集し、問題点の提起やプロセス・関係性に関連する部分を抜粋・要約した上で、KJ法によって分類を行った。その結果、「『アール・ブリュット』『アウトサイダー・アート』と障害者による創作物の同一視」、「福祉と芸術の関係」、「『作品』重視の傾向から生じる非対称な関係」、「プロセスや関係性へのまなざし」、「文化政策(障害者による文化芸術活動の推進に関する法律)」の5つの項目が導かれた。

本研究を通して次のような構図が浮かび上がった。まず、「アール・ブリュット」「アウトサイダー・アート」という言葉が障害者による創作物の同義語として用いられていることを問題視する指摘が多く見られた。そしてこのことを含め、日本の障害者による芸術活動の振興に向けた取り組みは、芸術界や経済と結びつき、そこでの価値基準に沿う「作品」を重視する傾向があり、それによって福祉と芸術の論理の衝突や目的の混同、障害者と健常者、および障害者間の非対称な関係を生むという課題を内包するようになった。そこで、こうした課題を克服する手段として、「作品」を重視することで見落とされがちであった創作のプロセスやその中で生まれる関係性に目を向けることが提案されてきた。

また、プロセスや関係性については、このようにしてその重要性が唱えられてきた一方で、その概念の精緻化・理論化という点では議論が深まっているとは言い難いという現状も本研究から見えてきた。さらに、2018年に交付・施行された「障害者の文化芸術活動の推進に関する法律」については、これまでの論点に対応する形で問題点が挙げられていた。すなわち、本法はこれまでの議論を十分に反映しておらず、「作品」重視の価値基準に依拠し、プロセスや関係性へのまなざしを欠いていることが明らかになった。プロセスや関係性を適切に捉えてその重要性を伝えていくために、その概念の精緻化・理論化に向けて議論を深めていくことと、これまでの議論を踏まえた形で障害者による芸術活動を支えていくことができるような政策のあり方について検討することは、今後、取り組むべき研究課題であると言える。

プレゼンテーションC (S棟106教室)-①9:30~10:00 実践報告「障害児者の音楽活動を支援するー滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター「おとさぽ」 始まりの一年」

山本知香(滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター)

【キーワード】障害 音楽 支援

【発表要旨】

はじめに 本発表は、2020年10月に滋賀大学に設立された「滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター(愛称:おとさぽ)」の、2021年度の実践報告である。おとさぽは、障害児者が生涯にわたって音楽を楽しむことができるよう支援することを目的とし、「1.アウトリーチ事業」「2.インリーチ事業」「3.指導者講習会」「4.パイロットプログラム」の4つの柱で事業を展開する。スタッフは、教育学部に所属する10名の教員(兼任)、センター長(併任)、そしてセンター専任教員1名(筆者)のあわせて12名である。本発表では、実質的な活動開始年である2021年度の実践について、4つの柱に沿って報告する。

1.アウトリーチ事業 ここでのアウトリーチ事業とは、音楽をいろいろなところに出向いて届ける活動を指す。単なる出張コンサートにとどまらず、参加者の興味や希望を聴きとった上で、オーダーメイドとなるよう工夫した。おとさぽは、センター員の派遣に加え、各学校や施設、演奏家との調整役となった。滋賀県内の特別支援学校、盲学校や、小学校特別支援学級、保護者の会、障害者を支援するNPO法人など、9か所に出向いた。

2.インリーチ事業 センター内に新設したセッションルーム等で、発達に遅れがあるなど、特別な支援を必要とする方のためのピアノレッスン・音楽療法、音楽ワークショップなどを実施した。また、季節ごとのイベントとして、特別な支援が必要な幼児から小学生の親子を対象とした、「おとのあそびば」という参加型の音楽イベントを冬・春の2回開催した。

3.指導者講習会 障害児者の音楽活動の広がりや深まりを目指し、音楽教育や音楽療法に携わる方、興味をお持ちの方に向けて、3回のセミナーを実施した。

4.パイロットプログラム  大学院生が音を用いた空間芸術作品をセッションルームを使用して展示したり、県内の福祉事業所とのコラボレーション企画として、センター内のギャラリーにてアール・ブリュット展を開催したりした。

以上、2021年度は、21事業を行い、障害児者・教職員や保護者等関係者あわせて1081名の参加があった。 今後に向けて 音楽教育や音楽活動の支援というと、音楽演奏技術の向上や、音楽表現の拡がりなどに目が向けられることが多い。もちろん、おとさぽの実践にもそのような側面もある。しかし、特に「オーダーメイド」を心がける中で、当事者の方々が何を求めているのか、何のために音楽をするのか、というところまで遡って考える機会が多く、一人ひとりの方の主体としての生を支援するための音楽の可能性を感じる一年となった。 まだまだ創設期であり、自治体との連携や研究活動など課題は多いが、地域の障害児者の音楽活動の拠点となるよう今後の事業を構想していきたい。

プレゼンテーションC (S棟106教室)-②10:00~10:30 研究発表「表現を拓く保育者の援助 ―造形活動におけるエピソードから―」

小室明久(中部学院大学短期大学部)、山口さゆり(渋谷区立本町幼稚園)、中村翔太郎(府中市立府中第十小学校)

【キーワード】子ども理解,表現,援助

【発表要旨】

本研究では子どもの造形活動における保育者の子ども理解と援助に着目した。子どもは日々の生活の中で遊びを通して育つ。保育者は子どもの育ちを支え,日々の保育が営まれている。保育における援助は子どもの志向性が実現するよう助けることである。保育者の子どもに対する援助は一人ひとりの子ども理解に基づいて取り組まれている。 子どもの遊びの中にある表現を捉え,子ども理解を深めていく研究は多くある。大橋は描画後の子どもと保育者の間に生じる関わりについて研究している[註1]。子どもが絵について語る時間が保育者と一対一で話す機会となり,絵を描く動機と描かれた内容を共有することによって子ども理解を深める契機としている。 さらに,子どもの表現それ自体を扱った研究もある。横井は子どもの遊ぶ経験それ自体を主題的に扱い,現象学的方法によって実践を記述し,検討している[註2]。保育者の密接な関わりから子どもが遊びをどのように経験し,またその遊びへと関わる保育者が子ども達の遊びの世界にどのように関わっているのかを捉えようとしている。

また,粘土遊びから子どもの内的様相や表現,身体性に焦点を当てた研究もある。南陽は粘土の造形活動に着目し,参与観察によって活動の在りようから子ども達の表現や体験を捉えようとしている[註3]。また,それは完成を目指したものに対して言及していくのではなく「最終的な作品に至らない行為,生産性や有用性といった指標では測ることのできない子どもの表現のありようを積極的に捉えていくと共に,そのような造形表現のもつ意味を考察することで,子どもの表現をより全体的に捉えることの一助としたい。」[註4]としている。 保育の中で行われる造形活動では,保育者は子ども達のさまざまな表現に瞬時に判断し,応答していく。また,子どもも保育者と関わり合う中で表現を展開している。本研究では身辺材を用いた工作に取り組む子ども達の表現過程を援助する保育者に焦点を当てた。 研究方法は鯨岡によるエピソード記述を用いる。エピソード記述では人と人が関わり合う際に,相手の心の動きと自己の心の動きがある接面に何が起こっているかを問う。本研究においても子どもの造形活動が展開していく場面に,保育者が子ども理解を踏まえた上でどのように関わり,支援したのか質的に考察を行なった。

註1.大橋麻里子(2017)「描画後の子どもと保育者の間に生じる『かかわり』の研究 生活画の活動に焦点を当てて」『美術教育学』38巻,美術科教育学会,p.135-149.

註2.横井紘子(2009)「「『遊び』の充実」を志向する保育者のありよう―現象学的視座から「遊び」援助の内実を探る―」,『人間文化創成科学論叢』11巻,お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科,pp.247-257.

註3.南陽慶子(2012)「粘土遊びにおける表現と身体性についての一考察―粘土を身体につける事例の検討から―」,『人間文化創成科学論叢』15巻,お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科,pp.241-249.

註4.同上,p.242.

プレゼンテーションC (S棟106教室)-③10:30~11:00 実践報告を含んだ研究発表「アートとケアが出合うとき―保育現象の人間学的理解に向けて」

佐治由美子(学校法人愛育学園 愛育学園(特別支援学校) 研究員)

【キーワード】アート 表現 ケア 保育 理解

【発表要旨】

保育において子どもの出す声や音、床に描く線、身体の動きなどを表現と捉えるなら、それらはすべてアートと言ってもよいでしょう。その子どもの表現には、言葉には表されない子どもの喜びや悲しみなどいろいろな感情が表出されています。保育者が子どもの表現に立ち合い、ましてそれが保育者に向かって差し出される表現であるとき、保育者はそこに込められている子どもの思いに向き合い、それに応えていこうとします。子どもの思いを受け取り、それに応答する保育が子どもを支えていくことになる場合、それは、子どもにとってのケアに結びつくことがあります。 筆者は愛育学園で幼稚部・小学部に所属する子どもたちの特別支援教育に携わりつつ、保育の中に浮かび上がる人間現象の理解に向けて研究を進めています。保育の実践の中に見出すことのできるアートとケアの出合いのとき(瞬間)を、筆者自身の実践記録を通して明らかにしていきます。 愛育学園では、小学部の子どもたちに対しても保育という用語を用いています。その理由は、子どもを主人公とする学校を目指しており、いわゆる時間割のない学校生活をつくっています。カリキュラムを子どもが成長していく上でたどるコースというラテン語本来の意味でとらえ、大人が平均的な育ちのイメージで決定するカリキュラムではなく、子どもと大人の共同作業で日々作り上げていくカリキュラムという考え方に立っています。子どもたち一人ひとりが人間として育つような保育的関係を大人たちが共につくり上げていき、卒業後も人格の完成を目指して子ども自らが成長し続けるようにその基礎固めに力を注いでいます。

発表要旨(ポスター発表)

11:40-12:10 (アートギャラリー)
※複数の発表が同時並行で進行します。

ポスター① 研究発表「アートを通した妊娠中からの子育て支援 ―「これからの子育てに安心・安全を感じるためのアートを活かしたワークショップ」の実施を通して―」

正保正惠・山内加奈子・渋谷清・渡邉真帆(福山市立大学)、弘田陽介(大阪公立大学)

【キーワード】アート 妊娠中から 子育て支援 ワークショップ

【発表要旨】

近年,包括的性教育は,看護学,助産学,母子衛生学といったジャンルにおいても注目されるべきものとなってきている。国際的な保健の機関もそのような流れの中でプレ・コンセプション・ケアを推奨するようになり,日本においても徐々に広まりつつある。そのような女性およびその周囲の人々への支援は,妊娠期の母親のストレスや不安が,そのまま出産の育児や子どもの発達そのものに大きな影響を与えることが,科学的に検証を経た上で把握されてきたことに起因している。 本研究グループは,このような動向を受けて,様々な悩みや不安を抱える妊娠・出産・育児の当事者の支援として,大学として何ができるのかを考えてきた。専門を異にするメンバー(家政学・美術教育・臨床心理・発達心理学・教育学)がチームを作って,教員のもつケアの専門的な知見を提供し,それぞれがコラボレーションする形でそのプロセスや効果を検討することを目的とした。さらに,大学内のみにとどまらず,公立大学の強みを生かし,市の子育て推進の行政担当者(ネウボラ推進課)や公立図書館の司書も含めて,研究チームに入っていただき,ともにプログラムを練ってきた。 具体的には,包括的性教育の親教育の部分を生かす形で,アートを通して妊娠中の女性およびそのパートナーの心と体に働きかけながら,安心・安全を感じられることを目的にワークショップを開催した。2021年および22年の秋に実施したワークショップでは,コロナ禍による緊急事態宣言発令などでオンラインおよびごく少数での開催となり,効果測定はできなかったが実施後に聞き取り調査を行った。 ここでのアートとは,造形や刺繍,絵本の読み聞かせの技法といった美術的な側面のみならず,妊婦が安心を感じるようなボディワークや気持ちの高ぶりを感じた際のアンガーマネジメント,さらには出産後の育児環境への見通しをもつことでの心の準備といった多方面に亘るものととらえている。これらのワークショップにおいては,ただアートを享受するだけではなく,自身の心と体の状態および日常生活をより見つめることができるような技術を広くアートとして受けとめることを眼目としている。それによって,妊娠中の女性たちとそのパートナーも少しの工夫でそのアートを担い,自己及び現在・将来の家族生活における落ち着きや生きがいを見出すことを眼目としている。加えて,制作などの中で手を動かしながら,受講者と講師が気軽にそれぞれの心持ちや経験を語れるようにワークショップは設計され,実施された。  また,今回,大学と地域の行政が連携し,地域の妊娠中の女性およびその周辺の人々への支援を行っていく実践とその意味を報告するポスター発表を行い,当日参加の様々なフィールドや学問分野の方々と議論や情報交換を行いたい。

ポスター②実践報告「クラウドファンディングによってひらかれる病院の環境改善プロセス ー緩和ケア病棟家族控室デザインプロジェクトー」

菅原楓・岩田祐佳梨(特定非営利活動法人チア・アート)、遠藤友宏、池井宏代、古谷亜津子、窪田蔵人、橘内大、矢吹律子、筑前谷香澄 (筑波メディカルセンター病院)、水畑日南子

【キーワード】緩和ケア、医療環境、デザイン、プロセス、クラウドファンディング

【発表要旨】

背景・目的 緩和ケアを受ける患者にとって、家族と過ごす時間は、つらさを和らげる何よりの薬になり、生きる力となる。筑波メディカルセンター病院では、付き添う家族に休んでもらう「家族控室」を設けている。しかし、この家族控室は、狭くて殺風景な空間に、小さいソファが設置された部屋であるため、心身ともに緊迫した家族が十分な休息を取ることが難しい空間だった。そこで、大学、NPO、病院との協働で、緩和ケア病棟家族控室のデザインに取り組み、クラウドファンディングによる支援金で改修をおこなった。本報告では、これらの実施プロセスおよび結果を報告する。

実施内容 本活動は、2018年より開始され、筑波大学の学生チーム「パプリカ」が調査やデザインを担当し、チア・アートがアートコーディネーターとしてプロジェクトのマネジメントおよびデザイン監修を行いながら進めたものである。病院では、広報課職員がクラウドファンディングの事務局を担当し、緩和ケア病棟の医師や師長が現場の思いや意見を取りまとめた。数か月に一度は、上記メンバーに加えて病院長や支援組織である広報委員の職員を交えたプロジェクト会議を開催し、家族控室のあり方や空間のデザインについて議論した。 話し合いを重ねた結果、茨城県産のヒノキ材を用いて、利用者を木で包み込むような空間を目指すこととなり、2022年7月に家族控室が完成し、運用が開始された。家族控室は、2部屋あり、状況に応じて、部屋を使い分けることができるように「横になって過ごすことが出来る小上がりの部屋」「ゆるやかな曲面のソファのある部屋」と機能の異なる2つの空間としてデザインされ、天窓には、優しい光が降り注ぐように、木製の造作物による装飾が施された。職員からは「家族の気持ちを想像して部屋を提供していることが伝わる」「自分も過ごしたいと思える部屋になった」という声が寄せられている。 さらに、本企画の特徴は、社会からの支援を得てプロジェクトを実現させるため、2021年にクラウドファンディングを実施したことである。439名の方による1300万円以上の支援が集まり、支援者の名前が入った芳名板も家族控室前の廊下に設置された。支援者からの応援コメントには、医療者や病院に対して感謝を示す言葉、緩和ケアの広がりを期待する言葉、医療環境の改善を切望する言葉がみられた。 まとめ 同病院では、2007年より、継続的に複数の環境改善プロジェクトに取り組んできた。本プロジェクトは、これまでの活動をふまえつつ、家族ヘのケアに視点をあてて、緩和ケア病棟の家族控室をデザインした。また、新たな試みとして、クラウドファンディングを実施した。結果、本プロジェクトへの支援行為が、医療を取り巻く多様な思いを表出する機会や場となったのではないかと考えられた。

ポスター③実践報告「大学生×こども まちの環境を考えるSDGsアートワークショップ」

広根礼子(金沢学院大学芸術学部)

【キーワード】SDGs ひとり親家庭 こども食堂 ワークショップ デザイン

【発表要旨】

1.はじめに

ひとり親家庭のこどもが抱える自然体験や文化的体験の不足を補い、人間形成や将来の選択肢に繋がる体験の格差を埋めることを目的に、令和3年度、金沢学院大学広根ゼミは、金沢市のおおくわこども食堂と連携し「アートワークショップ」の提供を開始した。加えて、こどもの幸せを考察する時、その多くの部分で親の精神面や社会性が影響をもたらすため、親のリフレッシュと社会的繋がりが実感できる機会提供にも配慮した。

コロナ禍のこども食堂は、弁当や食材配布による運営が続いており、容器やレジ袋に関する環境問題が浮上している。そこで、今年度は、こども食堂が抱える脱プラスチック問題を足掛かりに、大学生とこどもが、自分達が生活(通学)しているまちの環境をともに考える「SDGsアートワークショップ」を創出したいと考えた。SDGsの17の目標の中から「12.作る責任使う責任」に注目して、一過性の体験ではなく、日々の生活に持続的に生かす体験を目標に、取り組みを継続している。

2.活動の概要

学生が企画・運営・デザインを行い「SDGsアートワークショップ」を年3回、夏秋冬に開催する。開催当日は、ものづくりを通じて、参加者と丁寧なコミュニケーションを大切にする。こども食堂は、ひとり親家族のネットワークを通じて参加者を募り、お弁当や食材の配布を行うが、プラスチック容器やレジ袋を使用しない。

夏:8月7日開催

着なくなったTシャツを持参して、消しゴムはんこ・Tシャツ転写シート・ステンシルの技法で、笑顔のグラフィックを施したエコバックを作成。サトウキビを圧搾した残りの繊維部分「バガス」を原料としたランチボックスに詰めたお弁当を配布した。

秋:10月8日開催

こどもと親に別れて開催。子どもはフェルトボールを作り、果実に見立てて木に実らせ、親はお弁当箱の脱プラスチックについて座談会を行った。森林破壊に配慮した「森林認証紙」のランチボックスに詰めたお弁当を、新聞紙とでんぷんのりだけで作った「しまんと新聞ばっく」に入れて配布した。

冬:12月11日開催(予定)

使用済みの食品パッケージを使用して、コラージュの手法で、家に棲みついていそうな環境妖怪を制作。学生がアドバイスをして、妖怪のネーミングを決定する。完成した妖怪キャラクターは、これまでの活動内容の紹介パネルと共に、開催場所である玉川子ども図書館にて、1週間展示する。

3.考察と課題

全国のこども食堂数は、2012年に発足して以来、最多の6000カ所に上っている。一方で、石川県内のこども食堂数は大幅に減少しており、37カ所にとどまっている。減少率38%は全国最大だという。この取り組みを通じて、県内のこども食堂のネットワークづくりや存続に、デザインの力で貢献可能であると考える。

ポスター発表では、今年度の活動内容を紹介し、今後の可能性について対話を行いたい。

ポスター④実践報告「お菓子の定期便「えがおのおやつ」がつなぐえがおの輪 ~親子のえがおと里親と里子のえがおを考える取り組み~」

柊伸江(株式会社ダブディビ・デザイン)

【キーワード】福祉のお菓子、育児、ワーキングマザー、里親支援、フォスタリング

【発表要旨】

長年、福祉事業所のモノづくりに関わる仕事をしているが、福祉事業所で作られているモノで最も多いのはクッキーなどの焼菓子である。そもそも作業所と言われる施設は、障害のある子を持つ親が自身の子供の居場所作りを目的に設立したケースも多く、お母さん方でも手軽に作れるモノ、家庭で手に入る材料や機械で作れるモノとして、多くの福祉事業所でクッキーなどの焼菓子が作られるに至ったと考えられている。これまで多くの福祉事業所で似たようなモノを作ってきた背景から、今では、素材や味にこだわり、オリジナルレシピの開発に力を注ぎ、コンセプトからしっかり検討して商品開発をしている福祉事業所も少なくない。しかしながら、その販路はまだまだ限定的であり、一般消費者がいつでも気軽に買えるような流通システムが整っているとは言えない。福祉事業所で作られるお菓子の魅力を知っている私は、どうにかしてこの素敵な商品をもっとたくさんの方に広めたいと考えていた。素材へのこだわり、ひとつひとつ丁寧な手作り、これはまさにお母さんがこどもに食べさせたいお菓子そのものだと確信していた。実際、私が京都市内の福祉事業所の商品を販売する仕事をしていた時も、子供向けイベントでのお菓子の販売は売り上げも好調で、お母さんからもお子さんからも喜ばれていた。

一方、ある映画を見たことをきっかけに、私は、日本における里親制度とその課題について興味を持ち始めていた。日本では社会的養護が必要な子供の多くが乳児院や児童養護施設などで集団⽣活をしており、家庭的な環境で過ごす子供は約2割にとどまっている。これは先進国の中ではかなり遅れをとっている。2017年8月、厚生労働省の検討会において「新しい社会的養育ビジョン」が取りまとめられ、その中で家庭養育優先の理念が規定され、具体的な里親委託率向上の目標値も設定された。

福祉事業所で作られる安心安全なお菓子を定期便で毎月お届けするシステムを考えたとき、お菓子を手作りしてあげる余裕がない働くお母さんの肩の荷が少しでもおりるといいなと思ったし、お母さんと子供が一緒にお菓子をほおばるえがおのシーンが想像できた。さらに、様々な理由で実親と一緒に過ごせない子供たちにもえがおが広がる仕組みを作りたいと考え、この商品に寄付金を付け、その寄付のお届け先として千葉市の里親養育包括支援事業を受託しているキーアセット千葉様と協力関係を結ばせていただくこととした。「すべてのこどもに、えがおを。」これは、お菓子の定期便「えがおのおやつ」のテーマでもあるが、この社会で暮らす私たち一人一人の大人が果たさねばならない任務であるとも考えている。

デザインを専門にしている私が出来ることは何か、この企画にたどり着くまでに、アートミーツケア学会・青空委員会で「子育て女性のレジリエンスを考える研究会 Blow your worries ~後ろめたさを吹き飛ばせ~」という活動を支援していただいた。働く母親が感じる“後ろめたさ”や“罪悪感”、それらを吹き飛ばしたいと常々考えているが、まずはこのお菓子の定期便「えがおのおやつ」が一つの形として実になったと思っている。今後もこの大きなテーマを元に、デザイナーとして出来ることを社会に発信していきたいと思う。

ポスター⑤研究発表「いたみを推し量り表出する機会をつくる遊びの提案」

山北紗静(札幌市立大学大学院)、佐々木舞(札幌市立大学大学院デザイン研究科)、定廣和香子(札幌市立大学看護学部)、須之内元洋(札幌市立大学デザイン学部)

【キーワード】痛み、遊び、相互理解、共感

【発表要旨】

【はじめに】 相手の気持ちを理解することは難しい。同じ場面や状況であっても、人が感じる気持ちは個人の人生経験や置かれた環境によって異なり、多様化社会により個人の価値観や抱える問題が幅広くなることで、気持ちを理解することだけでなく、想像し推察することの難しさも増している。特に痛みは、自己と他者とで重みや程度が大きく異なることがあり、他者の痛みを正確に感じとることは容易ではない。また、日常の中で他者に向けて自分の感じる痛みを表出する機会が少ないことも、相手の痛みを推し量ることを難しくする一因になっていると考える。一方で、痛みへの思いや過去の経験を如実に語り合うことは、相互のストレスとなる可能性がある。そこで本プロジェクトでは、自分と相手とのいたみや感じ方の“違いを経験すること”に焦点をあてた。遊びを通して違いを経験することで、相手のいたみを楽しく推し量るきっかけや場を生み出すツールを構想したため提案および報告する。

【プロトタイプの作製】 ツールの構想にあたり、気持ちの表出や対応力を扱っている既製品の調査および一部試遊を行った。試遊から敬遠されやすいお題を話し合うには、自由度の高い遊び方や偏りがないお題が必要であると考え、プロトタイプを作製した。 主な遊び方は、①お題に対して、自分と相手が感じるいたみの数の違いを比べる、②お題に対して、相手が感じるいたみの数をあてる、の2通りとした。駒の造形には、いたみを数で比べるために、色や形が与える影響が最低限となるよう配慮した。お題は、普段いたみを感じる状況や場面について意見を出し合い、その後、国際疼痛学会やトータルペインの概念における「身体、精神、社会、スピリチュアル的要素」を基準にして分類し、お題が偏らないように工夫した。

【作製したツールの試遊から期待される効果】 共同研究者間でプロトタイプを試遊した。その結果、同じお題に対する自分と相手との違いや予想との違いを可視化できることは、違いへの興味を自然に抱くことに繋がり、いたみついて気軽に話す・聞くきっかけとなった。他のお題でのいたみの数や相手との過去の会話などから、相手のいたみの数を推し量るという行動に繋がった。また、自分のいたみの数を考える際には、先に出たお題に対する自分の数と比べることもあり、比較対象は相手だけではないということがわかった。さらに、対話の際には「この場合であれば私ならこのくらい減るかもしれない」のように、自分のいたみの数について、駒を使って表現することがあった。これは、いたみの数を0-10の数値として定量的に表現すると共に、台座上の駒の高さとして視覚的にも表現していると考えられる。この表現は、数字での表記のみでは起こり得ないため、このツールならではの効果であったといえる。

【今後の展望】 今後は、実際に利用者の家族や身近なコミュニティを対象単位として実施し、いたみの対話が相互理解の促進やストレスとして与える影響について評価を行う必要がある。また、対象年齢やお題の妥当性を検証し、ガイドブックを作製することで、さらに幅広い年代が使いやすいツールになると考える。

ポスター⑥実践報告「試作:がん教育に関する発想カードゲーム ~小児がん患者の復学後の学生生活サポートを実現する」

兪凡(女子美術大学大学院 博士前期課程 ヒーリングデザイン表現領域)

【キーワード】がん教育 復学後 カードゲーム

【発表要旨】大学時代、私は祖母を見舞いに病院に行ったところ、癌にかかった子供たちと出会い、彼らのために何かしたいと考えました。 それから、私は資料を調べて、医学の発展に伴い、小児がん患者の生存率は70%増加したが、治療中の苦痛と繰り返しの病状により子供の心身に大きな影響を与えることを知ったので、癌になった子供の心理ケアのため,遊ぶ事で治癒率をより高めたいという思いの「癌細胞をモチーフとした教具」をデザインしました。 この作品を通して、癌と戦う子供たちの力になりたいという思いが強くなり、さらに研究を進めたいと考えたので、大学院生の段階もこの方向に向かって研究しています。 研究方法については、私は主に小児がんとこどもの2つの方面について深く研究しました。 その過程で、私は子供たちが病気や治療に直面する際の不安や恐怖の心理と、元の生活に戻ることへの強い渇望を十分に理解しました。 そして、私は「おかいり!めいちゃん」という絵本を通じて、小学生の「復学」に対する態度と考えに注目し始めました。 子供が復学できると言われると矛盾した心理を持ちやすいことに気づきました。 彼らは早く正常な生活に戻りたいと望んでおり、治療時間が長く、友人たちは自分を忘れているのではないかと心配している。だから復学できることを知った時はとても嬉しいです。 しかし長期的な治療で彼らの体は虚弱になり、容姿にも大きな変化をもたらした。子供たちは学校の友人たちに自分の病状や変化をどのように説明すればいいのか分からず、自分が元のグループに溶け込みにくくなるのではないかと心配したり、同級生たちの異様な目を恐れたりしています。そのため、彼らは一定の心理的ストレス、特に社交的なストレスを発生させます。 彼らは本来の生活に戻る興奮もあれば、復帰後の生活に対する不安と恐怖もあり、この2つの矛盾した感情が交錯しており、子供の心の健康に非常に不利です。 復学後の学習生活は、子供が自信を持ち、プラスのエネルギーを回復できるかどうかの必要な段階であるため、復学前と学校のコミュニケーションが重要です。 しかし、学校とコミュニケーションをとり、先生が注意点を生徒に伝えることで達成できる効果は限られています。小学校にはすでに「がん教育」に関する教材が存在しているが、教材にはがんとは何か、がんになった人の考え方を紹介するものが多いです。しかし、学生たちに何ができるのかを自発的に考えることは難しいです。 だから、私は小児がん患者の復学後の学校生活サポートを実現するがん教育に関する発想カードゲームを試作しています。 ゲームを通じて、がんになった人が復学した後に起こりうることを伝えて、小学生のプレイヤーに様々な人物、環境、事件の変化の中でカードの配列とマッチングをさせ、「復学後の患者を最大限に助けることができる」という思考を達成させました。 しかし、今でもこの作品は進行中で、研究の過程でいくつかの問題に遭遇しました。 申し訳ありませんが、皆たちに助けてもらえたら最高と思います。 例えば、実際にはこのカードゲームでは、私の情報の受信の多くは文献やインタビューに由来しており、専門医や看護師からの専門的な指導が不足しているため、文字や内容が厳密ではない問題になる可能性があります。そこで先生たちからアドバイスをいただきたいと思います。 この試作が十分に整備された後に実施され、達成された効果が2倍になることを願っています。「がん教育」の目的をより深く達成し、子どもたちの同理心を築くことができるだけでなく、患者がより安心して「復学後」の学校生活を楽しむこともできると思います。