新型コロナウィルスは、これまであたりまえだった「人と人との関わり方」を一変させました。多くの方が「新しい日常」の中で大変ご苦労をされていることと存じます。しかし、そうした中にも、さまざまな発見や気づきがあったのではないでしょうか。例えば、「コロナで仕方なく始めたが、結果的にこれまでにできなかった〇〇ができるようになった」とか、「コロナに遭遇して、改めてこれまでやっていた〇〇の大切さを実感した」ということです。今回の学会では、コロナに出会った際のこうした発見や気づきを共有することで、「アートミーツケア」の意義や可能性について改めて考えることができたらと思っています。
2020年度の総会・大会には3つのプログラムがあります。
※参加申込は終了いたしました。
当日参加をご希望の場合は事務局までメールにてお申込みください。
[1] 11月7日(土)- 11月19日(木)
フリンジ企画 / 参加費無料
※企画内容によって事前申込の要・不要など詳細が異なります
→ 詳細を見る
[2] 11月20日(金)
オンラインエクスカーション / 要申込・視聴無料
→ 詳細を見る
[3] 11月21日(土)・22日(日)
総会・大会 / 要申込・有料
→ 詳細を見る
総会・大会チラシは、こちら よりご覧いただけます。
各発表の視聴には「ZOOM」を使用します。申込された方に入室に必要なパスワードをお知らせします(11月6日以降)。接続方法がわからないなど、お困りごとがありましたら気軽に事務局までお問合せください。
プログラム一覧
11月7日(土)-19日(木)
11月20日(金)
19:00-20:30オンラインエクスカーション
11月21日(土)
10:30-10:40開会挨拶・オリエンテーション
10:40-12:10with コロナトーク
13:10-14:40アジアとともに――arts with COVID-19
15:00-15:30アートミーツケア学会総会
15:50-17:20価値を引き出す評価のやり方
17:45-19:001日目 振り返り
11月22日(日)
10:30-13:30口頭発表
14:00-15:00ポスター発表
15:15-16:30大会全体の振り返り&トーク
お問合せ
会員が企画するトークセッションやワークショップなどを実施します。プログラムによって事前申込の要・不要など詳細が異なります。参加費はすべて無料です。配信方法などの詳細は随時このウェブページで最新の情報をお知らせいたします。
*企画を募集は終了いたしました。ご応募いただきありがとうございます。
フリンジ企画一覧(2020年11月7日時点)
11月7日(土) [zoomでの配信・要事前申込]
|
ぽえとりふれくてぃんぐ
|
11月の任意の日
|
あなたとわたしのせかいのおとAZUMI PIANO(ピアニスト) ①11月の某日、あなたの今いる場所の音を録って10秒〜20秒送ってください。静かな場所でも構いません。今そこにあなたがいて、何かの音に耳を 澄ます時、もしくはあなた自身に耳を澄ます時、地球上の何処かでまた、誰かが耳を澄ましている。あなたもわたしも何処かでひっそり耳を澄ましている。そんなあなたの音に、後で誰かがまた耳を澄ますかもしれない。 ▼Facebook イベントページ 音の宛先は✉︎azumi.piano@icloud.com |
11月8日(日) 13:00-15:00[zoomでの配信・要事前申込]] |
コロナ禍で実践される病院のアート・プロジェクト 岩田祐佳梨(特定非営利活動法人チア・アート、筑波メディカルセンター病院) 新型コロナウィルス感染症の拡大により、院内感染のリスクへの警 ▼申込、企画詳細は下記より ※申込は11月7日(土)18:00まで https://peatix.com/event/1659619/view?k=1bb45fb4008e197b790409c8b6590c52aa09e75b |
11月11日(水) 19:00-21:00[zoomでの配信・要事前申込] |
初めてのオンライン・ワークショップ:高齢者に向けて並河恵美子(特定非営利活動法人芸術資源開発機構 ARDA) 〜遠隔から体奏家・新井英夫さんと身体をほぐす〜 「アートを動きだすチカラへ」を掲げて、20余年にわたり高齢者へのアートデリバリーを行なってきたARDAは、アーティストとの相互交感のなかで、高齢者が自分らしく創造的で伸びやかな生き生きとした時間を体験することを目指しています。コロナ禍の今、アーティストと高齢者施設との共同により、施設でのオンラインによるアートワークショップを企画しました。杉並区のデイサービス施設「桃三ふれあいの家」を舞台に、新井英夫(体奏家)と板坂記代子(てきとう手しごと工房)のユーモア溢れるワークショップの様子をオンラインでご覧いただきます。また、全てが初めてのこと、試行錯誤を重ねながらの行程についてもお話します。ZOOMによる開催です。 ▼申込は下記までメールをお送りください。参加申し込みの方へは後日ZOOMのリンクをお知らせします。 artsdelivery@arda.jp ▼ARDAウェブサイト 助成:文化庁「文化芸術活動の継続支援事業」 |
11月14日(土) 14:00-16:00[zoomでの配信・要事前申込] |
マスキングテープ・ミーツ・ホスピタル
|
11月14日(土) 14:00-16:00[zoomでの配信・要事前申込] |
きく音、えがく音名嘉眞静香(東京学芸大学教育学部中等教育教員養成課程音楽専攻) 11月14日14:00から16:00までZoomによるオンラインワークショップを行います。私た ▼参加申込はメールにて。ワークショップ開始直前まで受付ます!
|
11月15日(日) [zoomでの配信・要事前申込] |
子育て女性応援プロジェクト Blow your worries~後ろめたさを吹き飛ばせ~柊伸江(株式会社ダブディビ・デザイン 代表取締役) 子育てと仕事の間で揺れ動く心の葛藤やストレスや不安、それらの “壁” をどう乗り越えればよいのか思い悩んだ経験を持つ方は多いと思います。子育て女性が後ろめたさを感じず自分らしくいられるようなサポートがしたいと思い、このプロジェクトを立ち上げました。子育て女性のレジリエンス(精神的回復力、復元力)を高め、不安や悩みがこじれる前に出来る小さなセーフティネットの一つとして何か出来ればと考えています。今回のオンライントークイベントはその第一弾。子育て中や子育て経験のある方々をオンラインでつなぎ、ぞれぞれの体験談からどのように壁を乗り越えたかのアイディアを持ち寄ります。また、おかあさんのレジリエンス値を高める方法を学び、今後のヒントにしていただきます。 ▼申込、企画詳細は下記より https://dabudivi.com/blog/ ・Facebook イベントページ |
11月18日(水)18:00-20:00
[zoomでの配信・要事前申込 先着4名まで] |
オンライン絵本ワークショップ:「新しい日常」のモヤモヤをつか
|
11月20日(金) オンラインエクスカーション
19:00-20:30 パフォーマンス&トーク
オンラインから生まれるダンス ~障害・ケア・表現~
九州大学ソーシャルアートラボでは2018 年から「《演劇と社会包摂》制作実践講座」を開催し、障害のある人の表現活動を支える人材育成に取り組んできました。そのプロセスから生まれたオンライン・パフォーマンスを上演するとともに、この取組から見えてきたものを語ります。
パフォーマンス:
遠田誠(ダンサー・振付家)、里村歩(俳優)
トーク:
遠田誠、里村歩、森山淳子(認定NPO 法人ニコちゃんの会)、
長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院助教)ほか
共催:認定NPO法人ニコちゃんの会、公益財団法人福岡市文化芸術振興財団
助成:令和2年度文化庁 大学における文化芸術推進事業
後援:福岡市
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
11月21日(土) 総会・大会 1日目
10:30-10:40
開会挨拶・オリエンテーション
※ZOOMには10時15分から入室いただけます
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
10:40-12:10
with コロナトーク
お便りコーナーのように、皆さんからお寄せいただいた「with コロナ体験」を紹介しながらゲストと話を進めていきます。コロナ禍で遭遇した発見や気づきを共有したり、これからのアートミーツケアについて語り合う場にしたいと考えています。特に今回は、障害を通して人間の身体のあり方を研究している伊藤亜紗さんをゲストにお迎えし、オンラインになることで失われた「非言語コミュニケーション」や「身体性」、逆により容易になった「参加」や「対等性」に焦点をあてて議論することができたらと思っています。(*開催時間の都合上全ての投稿を紹介できない場合があります。ご了承ください。)
■ゲスト:
伊藤 亜紗(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
■モデレーター:
中村 美亜(大会実行委員長、九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
長津 結一郎(大会実行委員、九州大学大学院芸術工学研究院助教)
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
13:10-14:40
アジアとともに――arts with COVID-19
アジアの方々とオンラインでつないで、コロナとともにあるアートのあり方について情報や意見の交換をします。コミュニティや地域をベースに活動するアーティストやコーディネーターはアジアに多く、ユニークな実践や知恵が蓄積されています。ジェニファー・リー(台湾)他の参加。通訳あり
助成:
国際交流基金アジアセンター アジア・文化創造協働助成
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
15:00-15:30
アートミーツケア学会総会
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
15:50-17:20
シンポジウム「価値を引き出す評価のやり方」
「評価の目的設定と方法選択」
中村 美亜(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
「評価に向けて言葉を得るためのヒント」
村谷つかさ(九州大学大学院芸術工学研究院 学術研究員)
「さまざまな評価手法と試行錯誤」
宮田智史(NPO法人ドネルモ 事務局長)
「評価の場づくりから見えてくること」
長津 結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院 助教)
■ディスカッサント
野呂田 理恵子(女子美術大学 准教授)
室野 愛子(耳原総合病院チーフアートディレクター、NPO 法人アーツプロジェクト理事)
誰かに勝手にされる評価ではなく、
これまで刊行したハンドブックはこちらからダウンロードできます
http://www.sal.design.kyushu-
共催:公益財団法人 福岡市文化芸術振興財団
助成:令和2年度文化庁 大学における文化芸術推進事業
後援:福岡市
*本プログラムは、令和 2 年度文化庁と大学・
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
17:45-19:00
1日目 振り返り
各プログラムごとにグループにわかれて振り返りを行います。3つの部屋に分かれていますので、ご関心のある部屋に自由に参加ください。
部屋番号 1 : with コロナトーク
部屋番号 2 : アジアとともに――arts with COVID-19
部屋番号 3 : 価値を引き出す評価のやり方
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
11月22日(日) 総会・大会 2日目
口頭発表 10:30-13:30
口頭発表は、1件あたりの発表時間が30分間で、同じZoom部屋で合計6件の発表を順次聞くことができます。
(1)研究発表 10:30-11:00
「変化の種」を読み取る−高齢者福祉施設でのアートプロジェクトの記録から
発表者:小泉 朝未(大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)
「『今を生きる変化の種』を持ち帰って、様々なかたちで育てていただければと願っています」。これは、京都市東九条地域に位置する総合福祉施設東九条のぞみの園の職員や入居者と、アーティストの山本麻紀子がともに行ったアートプロジェクト「ノガミッツプロジェクト」の中で行われた展覧会で、山本が来場者向けに記したテキストの一部である。[続きを読む⇒]
本発表では、高齢者福祉の実践の場にアーティストが介在することで、プロジェクトの核となった「変化」の思想がいかにアーティストの中に体得され、表現手法や作品へと反映されたのかをプロジェクトの記録から読み取ることを試みる。さらに施設職員らに変化の思想がどのように受け取られ、2年に渡るプロジェクトの実施を通じて、福祉の仕事の理念へと接続したのかを確認する。ノガミッツプロジェクトは、京都市が主催する「文化芸術による共生社会実現のための基盤づくり事業」のモデル事業として2018年度に実施されたもので、複数のコーディネーターら、リサーチャー(筆者)を配置し、アートプロジェクト専門のマネジメントや記録が行われた。筆者の役割は目標をあらかじめ定めずに流動的に発展するプロジェクトに同行し、必要に応じてインタビューを実施することで、関係者の様々な立場の視点を保存しながら、プロジェクトの展開を記述テキストの形へと変更することである。これはアートプロジェクトの評価の基礎となる、記録アーカイブの作業であり、プロジェクトの社会的な価値づけや美的な批評を行う前に、記述されたテキストからできごとを読み取り、解釈することを重視する。今回使用するのは、モデル事業を受託した東山アーティスツ・プレイスメント・サービスの依頼によって筆者により執筆された2018年度モデル事業の報告書と、2019年度の施設とアーティストによる自主事業となったプロジェクトの継続調査の報告である。山本はある場所への関わりを継続しながら、そこでふさわしいコミュニケーションを作り出しその延長に作品を生み出してきたアーティストである。彼女は東九条地域の住民であり、軒先の植え込みや鉢植えについての会話や植物のおすそ分けを通じて住民と交流していたが、地域の高齢者福祉施設との関わりはなく、はじめは施設に対して「ネガティブなイメージを持っていた」という。しかし、在日コリアンら多国籍の住民も多い地域の住環境の改善を求める住民らの署名活動によって公営住宅が建設され、その一階部分に地域の高齢者のための総合福祉施設として誕生した東九条のぞみの園の歴史や、職員と入居者らの関わり合いを知るにつれ、そのイメージは勝手な思い込みであると認識が変化していった。そうして施設中庭に畑や地域住民からおそす分けされた植物で構成された庭づくりや、入居者らとの対話をもとにかれらへの贈り物として制作された作品づくりが実施された。自らの身体を通じて働きかけることで始まり、今という時間を未来に向け歴史にするという変化、こうした変化の思想がプロジェクトの中で種として生まれ、芽吹き、育ったと筆者は考える。アーティストや福祉施設職員から発せられた言葉を中心にして、アートや福祉という営みの解釈を豊かにする思想が育まれたことを紹介する。
キーワード:アートプロジェクト、高齢者福祉、記録
(2)実践報告 11:00-11:30
共生社会の実現に向けた就労系障害福祉サービスとの連携による「ものやこと」のデザインプロジェクト
発表者:髙橋 智子(静岡大学 准教授)
1.問題の所在
近年、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、多様なあり方を相互に認め合えるような「共生社会」の形成が、積極的に取り組むべき重要な課題とされている。特に、これまで十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が社会参加できるような環境づくりが求められており、障害者の就労の機会及び内容の提供や環境の整理等も重要な視点とされる。[続きを読む⇒]
障害者の就労系障害福祉サービスには様々な種類があるが、本プロジェクトでは、「就労継続支援B型事業」を対象とする。今回連携する「就労継続支援B型事業所 キャンバス」(以下、キャンバス)は、静岡県でも珍しくコーヒーの焙煎から配合、粉砕を行い、オリジナルドリップバッグコーヒーの商品化に取り組んでいる事業所である。活動を通して、キャンバスの利用者(以下、利用者)がより良く生きることへの支援「働くこと、生活すること、学ぶこと」に取り組んでいる。また、キャンバス自体を利用者や地域の人々が気軽に立ち寄れる交流スペースとして活用していく可能性も検討している。平成30年に開設されて以降、①利用者の数が少ないこと、②情報発信がうまくいっていないこと(地域への周知、商品宣伝、活動報告等)、③売上をさらに伸ばし工賃を向上していくこと等が課題としてあげられている。
2.活動目的及び概要
本プロジェクトの目的は、共生社会の形成及び実現を目指してキャンバスと大学生が連携し、キャンバスの場や活動が利用者と地域の人(消費者)にとって価値のあるものとなるための「ものやことの提案(デザイン)」を行うことである。本活動ではキャンバスが焙煎したコーヒーを地域の人に提供するために実施している「オープンカフェ」に着目し、その内容の改善を行うことになった。オープンカフェには、①障害のある人の働く場としての意義、②障害のある人の楽しみを広げる場としての意義、③障害のある人とない人とが関わりを深める場としての意義がある。現オープンカフェをより魅力的な場所にするために、「はなす わかる つながる オープンカフェ」というキャッチコピーを掲げ、カフェを利用する人やカフェで働く利用者にとって価値ある場所になるための手立てを検討した。手立てとして、注文時に使用する「コーヒー分布図」と人と交流するための「コーヒーカード」の提案を行った。
独りよがりな提案にならないためにも、提案過程において、活動目的を意識すること、利用者やオープンカフェの実態を把握すること、コーヒーへの理解を深めること等が求められた。キャンバスのスタッフからは、困難さを乗り越え提案する過程こそが「共生社会の実現の第一歩」であると指摘・評価された。今回は「もの」の提案に留まり、「こと」の提案までに至っていない。スタッフからは、大学生と利用者の交流を通して新たな共生の取り組みが生まれる可能性が指摘されており、今後は提案した「もの」の活用方法等の可能性を探っていく。
キーワード:共生社会、コーヒー、デザイン、プロジェクト
(3)実践報告 11:30-12:00
アートの表現/研究/実践と社会との再接点づくりの試み −コロナ禍におけるオンライン授業実践からのアートグラフィックな探求−
発表者:笠原 広一(東京学芸大学 准教授)、細野泰久(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科/武蔵野美術大学非常勤講師)、古徳景子(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科/チアパス州立芸術科学大学准教授)
本研究は2020年度前半期に東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科の授業で行なった,研究と社会の接点を考える取り組みの報告と考察である。大学院生と教員が自身のアートの表現/研究/対人支援の実践を省察し,模索を通じてどのような社会的接点を生み出せるかを試行した。[続きを読む⇒]
アートの表現/研究/実践に携わる者にとって,その取り組みの社会的意義は決して自明ではない。特に教育や福祉などの対人支援の実践は日々の社会活動を生きる中でうまく表出・表現できない感情や状況,不安や生きづらさに何らかの形を与え,支えを見出そうとする関与や試みである。その研究も事象や出来事に何とか寄り添い,現象と言葉を往還し,一般化しえない固有の物語を何とか言葉で掬いだそうとする営為である。各々の活動と社会との接点を捉え直すことは,表現者(artist)であり研究者(researcher)であり対人支援の実践者(teacher)といった複数の立ち位置でアートに関わる者にとって,自分自身のあり方をどのように捉え,形づくり,変えていくのかということと切り離せない。本研究はそうした自己の複数的なアイデンティティの省察と表現にまつわる研究やワークショップなどの混淆的な探求としてのa/r/tography(アートグラフィー)の考え方に基づき,この半期間の自分(たち)と,自身の活動と社会との接点を再度考えていく試みの記録と考察である。
授業ではまず教員1名と大学院生2人が各自の背景を語ることで,現在さまざま形でアートの表現/研究/実践に関わることに至った経緯を共有した。そこから各々が取り組んでいるワークショップ研究(笠原),ソーシャル・プラクティス研究(細野),マリンバデザイン研究・マリンバ奏者(古徳)と社会との接点が浮かび上がった。その再認識を踏まえてコロナ禍の中でできることを模索する過程で,学生の授業作品のweb発信(笠原),動きの意識化とインクルーシブ・デザインのためのエクササイズ(細野),日常から変化を見つける音探し(古徳)の活動が始まり,それを基にオンラインワークショップ「みる・きく・ずらす−気づきの発見と感覚のアップデート−」を実施した。笠原は「動かないものが動くとき何が起こるのか」をテーマに普段動かないと思っているものを動かすワークを,古徳は「音探し,音変わり,音楽し」をテーマに生活空間にあるものを使った音のワークを,細野は「あなたの暮らす世界を変えよう」と題して認知の基盤である私たちの日常的な知覚体験と世界の意識化の捉え直しを行った。その結果,遠方からの参加はもちろん,オンラインでも気づきの発見と感覚の再認識が起こる体験が得られることが見えてきた。一方で,認知やコミュニケーションの基盤となる感覚や場の臨場感に根ざした関わり合いには難しさがあることや,コンテクストの共有,アプリケーションの技術的課題も浮上した。
こうした半期間の取り組みから,コロナ禍の状況が続く中で,それぞれの背景に根ざした視点からの表現/研究/実践を統合的に捉えた取り組みと社会との再接点づくりの模索を継続していくことに新たな可能性があることがわかった。
キーワード:コロナ(COVID-19)、オンラインワークショップ、A/r/tography(アートグラフィー)、感覚、臨場感
(4)実践報告 12:00-12:30
自然の色を病院に広げる染色によるアートの試み
発表者:川西 真寿実(ひといろプロジェクト)、いまふくふみよ(大手前大学 メディア・芸術学部)
はじめに)色彩は、視覚から入る情報として人の心理や生理にも関わるものであり、患者の心身へのバランスにも、多少なりとも影響を持つと考えられている。また、入院生活における色に触れる機会の減少や、医療空間の内装に使われている色の偏り等の課題を感じることもある。[続きを読む⇒]
塗料やシートの色は、ほぼ人工色で、色面そのものの味わいや表情をもつとは言えない。病院のイメージカラーや、医療での使用が好ましいとされる色が、カラーコーディネーションで多用される傾向があり、生花等の自然物の持ち込みには制限がある病棟も多い。「ひといろプロジェクト」では、これらの課題に向けて医療でこそ活きる「色やアート」に特化したケアに取り組み、院内でのワークショップや、参加型のホスピタルアートの制作などを行ってきた。2017年のいまふくふみよ氏(第2発表者)の個展で、天然植物染料による染色のインスタレーションに出会い、総じて渋みのある印象であった日本の伝統色には、実は明るく鮮やかな発色のもの、やわらかく清々しい印象のものがあり、互いに優しく調和し合うものである事を知った。驚きと同時に、自然の色に包まれ癒される心地よさを体感した。大学でも研究を継続されている伝統的な染色技法による、天然染料を用いたこのアートを、長期入院の患者様にも届けたいという思いが生まれた。
概要)大阪市・日本生命病院への染色によるアートの導入が決定した。きれいで新しく、テーマカラーの緑がサインや椅子などに統一されている。既存の大型絵画や、緑の人工色と調和を取りつつ、自然の色を場に広げる計画を進めた。ワークショップでは、病院の多目的室に本格的な材料を並べ、患者とご家族、医療従事者の方々の参加を得て、染色体験とパーツ作りを行った。漢方薬のような木の根や花等の自然物の原料も見られ、染料と媒染の組み合わせによる色の違いを知り、各々が選んだ色を刷毛にとった。色がみるみる変化する、鮮やかな発色に目を奪われる時間を、立場を超えて一緒に共有した。後日それらは一体化することで、新たな美を放つ2つのパネル作品となった。また同じ染料を用いた作家によるタぺストリーは、空間に透けて揺らぐ風のような作品として、共に共有スペースに展開した。
結果)今回のアートに関するアンケートでは8割以上の方々から肯定的な評価、特に患者の参加に関しては9割の方が良い、ワークショプの参加者ほぼ全ての人が楽しかったと回答した。評価や感想から、医療での色彩の効果を考えたアートの今後にも、可能性が感じられた。今回の活動は、自然との接点が少ないと思われる病院内に向けて、染色のアートにより、自然の色を取り込める珍しい事例の1つとなった。地球上に存在する希少な自然物を材料にし、時間を遡った伝統的技法を現代に用いることで、病院を使用する人々への心身に響き、医療環境を豊かにする一助となるアートへの展開につながった。今回の実践に関して、具体的に報告をする。
キーワード:病院の色彩、ホスピタルアート、医療への色彩活用、天然(植物)染料
(5)研究発表 12:30-13:00
病院におけるアートコーディネーターの役割に関する研究 ―筑波大学附属病院・筑波メディカルセンター病院の事例から―
発表者:守屋 木乃実(公立中学校美術科非常勤講師)
1.問題の所在
病院におけるアート活動とは、直接的な治療と結びつかず、患者や職員が主体的に関わり、治療・療養空間の改善にアートを用いる活動である。日本では2000年代から改築・新設を機にアートを取り入れ癒しの効果を期待する医療機関が現れ始める。しかし保管や展示場所、管理の問題からアート作品の扱いに医療者が困惑する状況や、職員全体でアート活動に対する意志共有が出来ていないという状況が生まれている。[続きを読む⇒]
また医療環境を改善する動きが広まり様々な実践報告が行われる中で、アート導入後の継続的な施設管理や制作過程において病院とアーティストをつなぎ、活動を支援する人材の必要性を示唆する声も上がっている。しかし現状このような人材配置の取り組みは広まっていない。その理由の一つとして、病院におけるアート活動を支援する人材の役割が不明であるために必要性が十分に理解されていないという問題がある。
2.目的と方法
国内の病院で活動するアートコーディネーターによる実践報告では、病院のアート活動に携わり知識や経験を積み重ねている様子が見られるものの、アートコーディネーターを研究対象とした論文は未だ確認できず、その役割や必要性については明らかにされていない。本研究は病院におけるアート活動とアートコーディネーターについて検討した上で、筑波大学附属病院及び筑波メディカルセンター病院のアートコーディネーター3名にインタビュー調査を行うことで、病院におけるアート活動を支援するアートコーディネーターの役割について明らかにすることを目的とする。
3.結果と考察
病院におけるアートコーディネーターは療養環境を改善し、病院組織や病院職員の学びを目的とした協働的なアート活動において、①「アート活動に関わる人々のニーズを把握し、活動を企画する」、②「アート活動に関わる人やコミュニティ同士を繋げる」、③「アート活動の価値を伝え広める」、④「アート活動に関わる人々に対して価値観や意識の変容を促す」という4つの役割があると結論付けた。
病院におけるアート活動は、単に病院という施設の環境改善を行うというだけでなく、病院内外の協働を促進するためのものとして役立てられていることが明らかになった。しかしアートを導入すれば自然とこの効果が期待できるわけではなく、アートコーディネーターが重要な役割を果たしているということが分析から明らかになった。アートコーディネーターの役割は、病院にアート作品を設置し管理するだけでなく、病院という場を考慮した上でアートを用いてコミュニティ内外の協働や学びを支援する役割を持つと言えるだろう。
キーワード:病院、アート、デザイン、コーディネーター
(6)研究発表 13:00-13:30
障害者のWell-Being向上につながる創造的芸術活動ワークショップ ―就労継続支援B型事業所の利用者を対象として―
発表者:謝 雪こう(九州大学 芸術工学府)、長津 結一郎(九州大学大学院 芸術工学研究院)
目的
本研究は、創造的芸術活動ワークショップ(手芸、小物の製作、塗り絵、スクラッチの絵、小物デコレーションなど)が就労継続支援B型利用者のWell-Beingにどのような影響を明らかにすることである。本研究の中で用いるWell-Beingとは、身体的、精神的、社会的に満たされた状態と定義している。[続きを読む⇒]
方法
被験者は、X障害者就労継続支援B型事業所の利用者33人(男性30人、女性3人、年齢20代1人、30代4人、40代8人、50代11人、60代8人、80代1人。精神障害20人、精神障害且つ身体障害11人、知的障害1人)である。創造的芸術活動ワークショップの参加者は23人、不参加者は10人いた(不参加者は来所して休憩エリアで休憩するか、また来所しなかった人である。)。ワークショップ講師は筆者で、作業の補佐を担当する職員が1人いた。参加者は2週ごとに1回、計10回事業所のカフェエリアで創造的芸術活動のワークショップに参加した。Well-Beingの評価方法はポジティブ作業等価評価(Equating Assessment of Positive Occupation:以下EAPO)を用いて測定した。EAPOをワークショップの実施中で計2回行った(不参加者も同じ時点で得点を記録した)。統計分析は、参加者と不参加者の平均値を算出し、t検定を用いて分析した。ワークショップの内容は、リックアート、うちわ作り、スクラッチアート、キャンドルホルダー、ハーバリウム、砂絵、クリスマスリース作り、ビンゴ大会、しめ縄作り、コースター作りであった。
結果と考察
参加者と不参加者を2群に分け、EAPO尺度得点の平均値を算出したところ、1回目測定の参加者で39.96点、不参加者で44.10点となり、2回目測定の参加者で46.91点、不参加者は39.40点となった。統計分析の結果では、参加者の得点は不参加者より有意に高かった(t( 31) = 2.11, p =.044)。また、参加者は1回目と2回目の尺度得点を比較すると、2回目の得点は1回目より有意に高く(t( 22) =3.20, p =.004)、不参加者の得点は1回目が2回目より有意に高かった(t( 9) =4.45, p =.002)。抑うつ傾向カットオフ値については、1回目では参加者の中で42点以上得た者は22人中8人で、2回目で22人の中15人だった。ところが、参加者の出席率と得点の相関関係は見られなかった。また、ワークショップの参加によって、参加者で抑うつ傾向と見られた者が減少し、それに対して不参加者で抑うつ傾向の者は3人から5人との増加が見られた。今回の結果から、X障害者就労継続支援事業所の利用者は、創造的芸術活動ワークショップの参加によって、ポジティブ作業等価尺度の得点の上昇が見られ、Well-Beingの改善が考えられた。しかし、サンプルサイズや利用者所在事業所、地域の条件を考え、結果にバイアスが生じる可能性は否定できない。次の段階として様々な施設で知見を増やし、本研究で明らかとなった効果についてさらなる検証を推進する。
キーワード:Well-Being、ワークショップ、ポジティブ作業等価評価、障害者芸術活動、就労継続支援
ポスター発表 14:00-15:00
ポスター発表では、複数の発表が同時並行で進行します。
(1)研究発表 14:00-15:00
障害という境界を超えた身体的相互行為によるコミュニケーションの可能性─ダンスパフォーマンスの分析を通して─
発表者:小松 駿斗(芸術工学部音響設計学科 長津研究室)
芸術と社会包摂のありようを実践的に記述するためには、現場を事細かく繰り返し見つめ直すことによって人々の無意識的な行為から活動の意味を抽出するという、相互行為分析[1]の方法が有効であるとされている。このようにして現場からの微細な視点を積み重ねることによって、包摂的な社会を実現するために必要な要素を発見することができると考えられる。[続きを読む⇒]
この現状を踏まえて先行研究を調べてみたが、健常者と障害者との間における相互行為についての先行研究は少ないようだった。したがって本稿では、現場の一例としてとあるワークショップを取り上げ、そこで行われる健常者と障害者による身体的な相互行為に着目し、その状況を詳細に記述することによって、社会包摂の様相をより明確にすることを目標としている。
本稿では、ダンス対決という相互行為の2つの事例を用いて考察を行う。第一に、九州大学ソーシャルアートラボ(以下、SALと略記)によって2018年7月に行われた「演劇と社会包摂」制作実践講座において、俳優S(障害がある人物であり、車椅子を使用している)とダンサーE(振付も行っている)が即興的にダンスを通じたコミュニケーションを行ったという事例である。第二に、今年の7月に開催されたワークショップ「それぞれの日常を交換する 応用編」にて(SAL主宰、Zoomを使用したオンラインワークショップ)、上記のダンスを通したコミュニケーションの発展として、離れた距離にいながらもZoomの画面上でダンス対決をするというパフォーマンスを披露したという事例もある。これらのダンスを比較・分析し、身体的相互行為は障害という境界を超えるようなコミュニケーションをどう形成していくのかという観点について考察することを本稿の目的とする。
その方法として、録済みの2種類のダンスをそれぞれ繰り返し観察し、詳細に記述することによって、俳優SとダンサーEによるダンス対決の行動分析を行った。ダンスパフォーマンス中は、それぞれの身体のありようを最大限活かしながらお互いに呼応し、障害という垣根を超えて信頼関係のようなものが築かれていった様子が見受けられた。また先日、SAL主宰のイベントにて、彼らの新たなパフォーマンスの場が設けられたので、その制作に携わりながら彼らの考えていることやパフォーマンスにかける思いを探り、より洗練した考察を行うための要素を抽出した。さらに今後、彼らに半構造化インタビューを行うことによって、彼らがダンス中に考えていたことや、パフォーマンス前後における心情の変化を把握する予定である。
これらの結果から、身体的相互行為によるコミュニケーションに必要な要素を考察する。彼らの対決は強い意志を持った非言語コミュニケーションであり、対面のときは視覚情報(目線、身体の動きなど)、オンラインのときは聴覚情報(鳴っている音楽や相手が動く音など)を中心に互いの動きを探っているように感じられた。より細かい分析の結果やインタビューなどによって、2つのダンスに共通する要素と異なっている要素についてより深く理解が及ぶことが予測される。
【参考文献】
[1] 西阪仰(2008)「分散する身体:エスノメソドロジー的相互行為分析の展開」
キーワード:社会包摂、ワークショップ、障害、ダンス
(2)研究発表 14:00-15:00
聴覚障害児とのコミュニケーション ツール(musicolor)の開発
発表者:靳 梦(武蔵野美術大学 中原俊三郎ゼミ)
本研究は、聴覚障害児の為の音を可視化する教具の開発の研究である。教具を用いて、聴者が聴覚障害児の表現に注目するようにして、聴覚障害児の創造力と表現力の向上を目指す。そして、聴者と聴覚障害児のコミュニケーションを促進させることを目的とする。研究方法として、先天性聴覚障害児童の感覚世界の探究を、明晴学園(品川区)小学部でのワークショップ(2019年1月)を通して行った。[続きを読む⇒]
このワークショップのテーマは、聴覚障害児童の音の視覚表現である。目的として、先天性聴覚障害児童にとって聞こえにくい生活音を色に転換する方式を研究することである。普段の生活でよく聞かれる音(雨、花火、波、線香花火、風鈴、踏切、コンサート)の映像をモニターに映し、それぞれのテーマに基づき、カラードットで楽譜の上に貼ってもらった。その結果、「①音の大きさとリズム感を最も強く表現している ②色がシンプルなテーマ(波、線香花火)なら、テーマの色もシンプルである ③変化の多様性ありのテーマ(コンサート)なら、子どもたちの創造はビデオの画面の色にあまり影響されていない ④音符などの記号、符号を使っている ⑤聴覚障害児と聴者のコミュニケーションでは、表情を読むことが大事」という5つの点が見出された。
次に、音を視覚化する為のシステムの開発を行った。先天性聴覚障害児の音の可視化の転換作品を分析し、聴覚障害児にとって、音の音量とリズムを可視化するのが最も表現しやすいという結論を得た。そのデータに基づき、教具のプロダクトにおけるインタラクションの方法を予想した。ワークショップでの聴覚障害児の作品を分析してみると、聴覚の音量と視覚のサイズは対応できる。また、聴覚のリズムの視覚の並びの間隔は対応できる。しかし、色と音高は関係がないことがわかった。だが、色配列の変化と音の流れの間に微妙な関係があり、音と色の共通点を探してみた。この段階では、音楽学の教授の指導を受け、4つの音階と色の対応方式を提案した。次に、①音楽の角度から音と色の協和感の一致性、②違うメロディに対応している色の配色、③子ども向けの色彩感という3つの判断基準で、最後に、15個音階と対応している15個色を決めた。
その後、音と色の対応を検証する為、青島市中心聾学校(中国・青島)高校部で、2回目のワークショップ(2019年9月)を行った。このワークショップの目的は、聴覚障害者の作品で使った色から転換した音階の協和感の検証である。結果として、子どもたちの作品から、特定色を決めた音階(音高)に転換し、そのメロディが音楽学の既存の協和音程と比べてみると、ある程度の対応が見られることがわかった。この音階と色の対応方法を使ってプロダクトを開発した。
キーワード:聴覚障害児、コミュニケーション、ゲーム
(3)実践報告 14:00-15:00
コロナ禍におけるマスキングテープを使ったホスピタルアートの意義 ―徳島大学におけるワークショップとコンテストの成果―
発表者:吉田 歩生(Tokudai Hospital Art Labo 徳島大学総合科学部)、川端 ひな(徳島大学総合科学部)、田中 佳(徳島大学大学院社会産業理工学研究部)
本発表では2020年2月と9月に開催したマスキングテープを使用したホスピタルアートのワークショップと、同年3月から4月にかけて開催したコンテストについて報告し、コロナ禍での発見や気づきからホスピタルアートの意義や可能性について考察する。2020年2 月に徳島大学でホスピタルアートの魅力や制作方法を伝えることを目的として「マステアートが変えるこころとからだ」と題したワークショップを2日にわたり開催した。[続きを読む⇒]
2日間で述べ40人程の多職種の参加者と一緒に桜と渦、お手洗いサインの制作を行った。ワークショップ後に行ったアンケートには多くの参加者から「皆で一緒に作るのは楽しく、自然な会話が生まれたのが良かった」という声が寄せられ共に制作を行うことでコミュニケーションの促進に繋がることが確認できた。また「マスキングテープは貼り直しができるため、失敗を恐れず自由に制作を行えるところが良い」という声もあり、これから医療現場へホスピタルアートを導入していこうと考えている参加者へのきっかけづくりができた。
また3月から4月にかけては休校中の自宅での過ごし方の提案として「おうちで作ろう!マスキングテープアート」コンテストを開催した。徳島県内の高校生以下を対象に、マスキングテープを使って自宅の壁に作った作品を応募してもらった。優秀作のアイディアを我々がホスピタルアート制作に取り入れていくことで地域の子どもたちと病院との繋がりが生まれることが期待される。
同年9月には2回にわたってオンラインでのワークショップを開催した。これは、コロナ禍で病院に行くことや入院することが患者や家族、医療従事者にとって大きなストレスとなる中、我々がホスピタルアートの制作方法を医療現場で働く人へ伝え、参加者それぞれに実践してもらうことを目的としたものだ。2日間で述べ70人程の参加者にマスキングテープを使用したホスピタルアートの魅力や、モチーフの制作方法を伝えた。ワークショップでは計10個のモチーフの制作方法を映像と言葉で伝え、我々と参加者が同時にモチーフの制作ができるよう進行した。ワークショップ後のアンケートには「マスキングテープアートはちぎる、貼るという指先の訓練や、色や形をイメージするなど患者のケアに使える」「医療とは違った面から心を癒し、病院を明るい空間にできる」という声が寄せられた。このことから職場環境の快適さの向上や、患者さんへのケアの改善につながっていく可能性が確認できた。
このように我々は地域の人を対象としたワークショップと、地域の人に限らず誰でも参加することができるオンラインでのワークショップを行った。今後はそれぞれのメリットを生かしてワークショップの有効な方法を検討し、制作方法をマニュアル化し公開することで、マスキングテープのホスピタルアートへの活用を広く提案していきたい。参加者からは実際に職場に取り入れたという報告があり、コロナ禍に悩む人々を支えるホスピタルアートが広く浸透していくことが期待される。
キーワード:ホスピタルアート、マスキングテープ、ワークショップ
(4)実践報告 14:00-15:00
児童発達支援/特別支援教育において活用できる絵の教材化を目指して
発表者:竹井 うらら(東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程美術選修)
本研究は, 児童発達支援・放課後等デイサービス事業所の協力のもと行なった。発達障害がある子どもたちに向けて, 絵を描くプリント教材を作成し, 使用, 改善を繰り返した過程と結果,考察をまとめた。発達障害がある子どもにとって, 漢字を書くことや, 人に考えを伝えることは難しい場合がある。その特徴は, 子どもたちが今後自立し, 社会で人間関係を築くうえで困難をきたす恐れがある。[続きを読む⇒]
内藤他(2012)によれば、発達障害によるコミュニケーション上の困難さや言葉のとらえ違えから, 対人関係における不適応行動が起きやすいことが指摘されている。そこで, 漢字を書く力や人に考えを伝える力の向上を支援する, 絵のプリント教材の作成を試みた。作成したプリント教材を事業所で使用してもらい, 改善点を見つけ改良したプロセスを記録した。この記録を活用して、発達支援や特別支援教育の現場で有用なものにしていきたい。
プリント教材では,「形をとらえる練習」と「イメージを形にする練習」の二つにテーマを分けて作成した。「形をとらえる練習」においては、線や物の形をなるべく正確にとらえることができるように, 見本の線やイラストを真似て描くプリントにした。実際の支援で使った結果, 見本の線やイラストを見ただけでは形や構造が伝わりにくいことが明らかになった。その結果を受けて, 針金や画用紙を見本の線やイラストの形に変形させて, 手で触って形をとらえられるように改良した。手で触って形を確かめてからプリントに描くことで, 子どもたちが描いた形が見本に近いものになったことから, 障害がある子どもが形を捉えるために, 触覚をつかうことは有効だとわかった。「イメージを形にする練習」においては, 絵に描くモチーフの特徴を言葉にして書き出した後に, 絵に表現することを促すプリントを作った。支援で実際に使ってみると, プリントの中身だけではなく, 子どもへの声掛けや個人に合わせて取り組み方を少しずつ変えることが必要であるとわかった。
これらのプリント教材が, 発達障害のある子どもが漢字を描くことや意見を伝えることにどのように結びつくのか,さらに長期的に調査していく必要がある。本研究ではその前段階として「形をとらえる練習」,「イメージを形にする練習」に焦点を当て教材づくりのプロセスを記録したことで,次の教材化の手がかりを得ることができた。この記録を活用し, 教材化ができれば発達支援や特別支援教育での可能性が広がると考える。それを目指して, 本研究を更新していきたい。
文献
内藤千尋, 田部絢子, 高橋智(2012)児童自立支援施設における発達障害児の実態と支援に関する調査研究 -全国児童自立支援施設併設の分校・分教室の教師調査から. 東京学芸大学紀要 総合教育科学系, 63(2), 21-30.
キーワード:発達障害、プリント教材、美術、触覚
(5)実践報告 14:00-15:00
自然の色を病院に広げる染色によるアートの試み
発表者:川西 真寿実(ひといろプロジェクト)、いまふくふみよ(大手前大学 メディア・芸術学部)
はじめに)色彩は、視覚から入る情報として人の心理や生理にも関わるものであり、患者の心身へのバランスにも、多少なりとも影響を持つと考えられている。また、入院生活における色に触れる機会の減少や、医療空間の内装に使われている色の偏り等の課題を感じることもある。塗料やシートの色は、ほぼ人工色で、色面そのものの味わいや表情をもつとは言えない。[続きを読む⇒]
病院のイメージカラーや、医療での使用が好ましいとされる色が、カラーコーディネーションで多用される傾向があり、生花等の自然物の持ち込みには制限がある病棟も多い。「ひといろプロジェクト」では、これらの課題に向けて医療でこそ活きる「色やアート」に特化したケアに取り組み、院内でのワークショップや、参加型のホスピタルアートの制作などを行ってきた。2017年のいまふくふみよ氏(第2発表者)の個展で、天然植物染料による染色のインスタレーションに出会い、総じて渋みのある印象であった日本の伝統色には、実は明るく鮮やかな発色のもの、やわらかく清々しい印象のものがあり、互いに優しく調和し合うものである事を知った。驚きと同時に、自然の色に包まれ癒される心地よさを体感した。大学でも研究を継続されている伝統的な染色技法による、天然染料を用いたこのアートを、長期入院の患者様にも届けたいという思いが生まれた。
概要)大阪市・日本生命病院への染色によるアートの導入が決定した。きれいで新しく、テーマカラーの緑がサインや椅子などに統一されている。既存の大型絵画や、緑の人工色と調和を取りつつ、自然の色を場に広げる計画を進めた。ワークショップでは、病院の多目的室に本格的な材料を並べ、患者とご家族、医療従事者の方々の参加を得て、染色体験とパーツ作りを行った。漢方薬のような木の根や花等の自然物の原料も見られ、染料と媒染の組み合わせによる色の違いを知り、各々が選んだ色を刷毛にとった。色がみるみる変化する、鮮やかな発色に目を奪われる時間を、立場を超えて一緒に共有した。後日それらは一体化することで、新たな美を放つ2つのパネル作品となった。また同じ染料を用いた作家によるタぺストリーは、空間に透けて揺らぐ風のような作品として、共に共有スペースに展開した。
結果)今回のアートに関するアンケートでは8割以上の方々から肯定的な評価、特に患者の参加に関しては9割の方が良い、ワークショプの参加者ほぼ全ての人が楽しかったと回答した。評価や感想から、医療での色彩の効果を考えたアートの今後にも、可能性が感じられた。今回の活動は、自然との接点が少ないと思われる病院内に向けて、染色のアートにより、自然の色を取り込める珍しい事例の1つとなった。地球上に存在する希少な自然物を材料にし、時間を遡った伝統的技法を現代に用いることで、病院を使用する人々への心身に響き、医療環境を豊かにする一助となるアートへの展開につながった。今回の実践に関して、具体的に報告をする。
キーワード:病院の色彩、ホスピタルアート、医療への色彩活用、天然(植物)染料
(6)実践報告 14:00-15:00
子どもの表現がもたらす変容―教師の直面する葛藤に着目して―
発表者:竹 美咲(愛育学園 非常勤講師/東京学芸大学個人研究員)、小室明久(中部学院大学短期大学部)
保育の現場では保育者と子どもが応答的に関わりながら日々を過ごしている。保育者が主導的に活動を実施するのではなく,また,子どもの主体性のみに委ね,日々の保育を行う訳ではない。両者が互いに向き合いながら日々の保育という営みが成り立っている。しかし,保育者は保育の過程で葛藤を抱えながら子どもに向き合っている。[続きを読む⇒]
渡辺は集団保育での制度的な制約と幼児個々への自己実現の保障という保育における両義的な一面に着目し,保育者の悩みを葛藤として捉えている1。和田は保育実践における葛藤について「子どもの主体性を大事にし,子どもの願いを読み取ろうと努めながら,保育者として子どもの育ちへの願いを持って関わろうとする時,両者の思いのすれ違いが生じる。」2と述べ,子どもが願っていることを保育者が推察できなくなることや保育者間の思いのすれ違いにも言及している。また,保育の現場だけではなく,学校教育においても教師に同様の事例がみられる。生徒との関わりにおいて教師が問題に直面し,解決しようと試みるもさらに新しい葛藤を生みだしていく様相を分析する研究もある3。
教師や保育者が向き合っている葛藤は研究の対象としても着目されてきた。
本発表ではこうした教育実践を行う者の抱える葛藤について,子どもの表現を通して自身の葛藤が変容していった実践者について考察する。本実践は筆者(竹)が勤務している特別支援学校(小学部)において記録したエピソードである。エピソードは筆者自身が勤務している間に感じた,教育的な役割と子どもの思いに応えようとする間にて揺れ動く葛藤を記述している。
エピソード1:お弁当の時の「い〜しや〜きいも〜」の歌
Uさん(小学部3年生)は、お昼ご飯を自分一人で完食することが難しい。一日を時間割で区切るカリキュラムをとらない当校は、昼食をとる時間も子どもの活動による。Uさんは活動に夢中になり,お弁当を食べることの優先度が低い。Uさんとよく時間を過ごす私は、Uさんの母の「お弁当を食べきってほしい」という思いと、Uさんの「今は食べない」という選択や「自分のタイミングで食べる」という思いの狭間で揺れることがたびたびあった。そのような中、Uさんが口ずさんだ「石焼き芋」の歌を一緒に楽しんで歌うことが、Uさんと私のお弁当を食べるきっかけに影響したエピソードである。
エピソード2:詰まりそうなトイレットペーパーを流すこと
Uさんは、排泄に困難があり、おむつを使用している。ある日、Uさんが思ってもいない場面で排尿する出来事の後、やりきれない思いを抱えたUさんは、詰まりそうな量のトイレットペーパーを便器に詰め込んだ。私は瞬時にトイレが詰まっては困ると懸念するも、Uさんとのやり取りの中で、Uさんの行為の中に自らの排泄へ感じるもどかしさや困難を乗り越えるための重要な意味が込められていることへ気づくエピソードである。
本エピソードでは子どもの表現が筆者の子どもの気持ちを捉える契機となり,また,筆者自身が感じている葛藤やわだかまりが変容していく様を検討した。
註
1. 渡辺桜,2014,「集団保育において保育課題解決に有効な園内研究のあり方―従来の保育記録と保育者の『葛藤』概念の検討をとおして―」,『教育方法学研究』39,pp.37-47.
2. 和田幸子,2016,「応答的・相互主体的に織りなす保育の可能性―障害児デイサービスの事例における「葛藤」の考察を通して―」,『保育学研究』54巻2号,p.62.
3. 山本雄二,1985,「学校教師の状況的ジレンマ−教師社会の分析にむけて−」,『教育社会学研究』40,pp.126-137.
キーワード:特別支援教育、葛藤、表現
大会全体の振り返り&トーク 15:15-16:30
フリンジ企画、オンライン配信、初の試みが盛りだくさんだった今年の総会・大会を振り返ります。
[進行]
アートミーツケア学会2020年度総会・大会実行委員
※視聴するにはパスワードが必要です。参加ご希望の場合は別途お申込みください。
申込み方法
お申込みの方法は3つあります。いずれかの方法でお申込みください。
(1)チケット販売サイト Peatix から申込む
クレジットカードやコンビニ決済で参加費を支払うことができます。
https://artmeetscare2020.peatix.com/
(2)WEBフォームから申込む
下記URLから申込者情報をご入力ください。ただし、お支払いは郵便局の郵便振替のみですのでご了承ください。振込手数料はご負担願います。振込用紙の受領書をもって領収書にかえさせていただきます。通信欄に「振込内容(内訳)」をご記入ください。
※申し込み者様のお名前でお振込みください。法人名や他のお名前ですとお振込みが確認できない場合があります。
https://forms.gle/ATDkAPRf9G8JLv4QA
(3)メールまたはFAXから申込む
下記のチラシデータをダウンロードいただき、申込者情報をご記入のうえ、メールまたはFAXでお申込みください。その後、郵便局の郵便振替でお支払いください。
チラシは、こちら よりダウンロードしてください。
口座記号・番号 : 00920-4-252135
加入者名:アートミーツケア学会
参加費
アートミーツケア学会 会員(一般) 1,000円
アートミーツケア学会 会員(学生) 500円
アートミーツケア学会 未会員(一般) 2,000円
アートミーツケア学会 未会員(学生) 1,000円
*ご入金いただいた参加費は、原則としてご返金いたしかねますのであらかじめご了承ください。
申込期限
2020年11月14日(土) →11月17日(火)まで締切を延長しました!
会場
オンラインと、サテライト会場が2カ所あります。
■オンライン
お申込いただき、参加費の入金確認ができた方にZOOMのURLお知らせします。
■サテライト会場
ネット環境がない方などにご利用いただくため、東京と奈良にパブリックビューイングを設けます。各会場とも要事前申込、定員(先着順)がございますのでご了承ください。
(1)たんぽぽの家(〒630-8044 奈良県奈良市六条西3-25-4) 定員10名
アクセス:https://tanpoponoye.org/access/
(2)立川市子ども未来センター(〒190-0022 東京都立川市錦町3-2-26) 定員20名
アクセス:http://t-mirai.com/access/
*立川市子ども未来センターの会場では、オリジナルのプログラムも! 今年の大会では貴重な交流の場です。ぜひお申込みください! プログラムをご覧いただけます→pdf
情報保障について
11月20日(金)~22日(日)の配信にあたっては、適宜文字による情報保障をする予定です。必要な方は下記までお問い合わせください。
お問い合わせ・お申し込み先
アートミーツケア学会
〒630-8044 奈良市六条西 3-25-4 一般財団法人たんぽぽの家内
Tel:0742-43-7055 Fax:0742-49-5501 E-mail:art-care@popo.or.jp
URL https://artmeetscare.org
主催:アートミーツケア学会
共催:九州大学大学院芸術工学研究院、九州大学大学院芸術工学研究院附属ソーシャルアートラボ
後援:九州大学芸術工学部未来構想デザインコース