この学会について

2006年3月にこの学会がつくられてから、はやくも17年たちました。
日常化した災害、気候変動、殺害、テロリズム、ソーシャルメディアによるデマや誹謗中傷、戦争、政治的分断など、この17年のあいだに、とてつもなくおおきな社会状況の変化を、わたしたちは経験しつつあります。また、わたしたちがじぶんのものであると信じてきた感性や思考のなかにも、監視やテクノロジーの影はしのびより、もはや技術についての楽観的な未来をえがくことはむずかしくなりました。いま、わたしたちに求められているのは、ちがいや対立のさなかにあって、いくつも可能性をえがきだし、想像力と創造性によって橋をかけ、つながりをかんじとる、実践のしなやかさです。
このたび、わたしたち3名は、共同代表に選ばれることになりました。あたえられた2年の任期のあいだ、みなさんとともにこの学会の理念そのものを練りなおすために、ちからをつくしたい、とかんがえています。
昨年度にいただいた会員のみなさんのこえをもとに、この2年の大きな目標について理事で議論をはじめました。いそいでかたちをきめるのではなく、じっくり時間をかけてこれまでの委員会体制をみなおし、理事のみならず、会員のみなさんとともに、こえをかさねあい、手をうごかし、あそぶ場をつくっていくことをたいせつにしたい、とおもいます。
また、理事会・事務局の透明性をたかめ、共同代表や理事会のミーティングにて協議されている内容を、随時会員が知ることができるよう、しくみをつくる予定です。

今年度の具体的な事業については、まだ理事のあいだで協議中ですが、おそくとも7月までには、決定してみなさんにお知らせします。

理事で現在検討している目標は、以下のとおりです(2023年8月現在)。
・アートとケアそれぞれの中心というよりは、そのふたつの周辺においてまじわるものの価値を社会へ発信する
・アートとケアを、マイノリティの視点などの、いくつもの角度からとらえなおす
・境界や分断を超えていく創造性に着目する
・理念を実践で語り合う
・あそびを通して参加する

 

[理事会で検討中のことがら]
・本年度は大会を開催せず、かわりに、オンラインセミナーや研究会などのイベントを実施する
・オンラインでの共同代表トークや理事トークなどの、新企画を考案する
・オンラインジャーナルの方針を6月中には決定する

・あたらしい情報媒体を模索する

2023年5月19日
共同代表 長津結一郎 ほんま なほ 森合音

 

共同代表それぞれからのメッセージ
今回共同代表をお引き受けするにあたって、アートミーツケア学会の会則を読み直してみたところ、「人の生きやすい社会、文化をつくることを目的とする」と書いてありました。設立以来掲げてきたこのミッションは、今に至るまで色褪せていません。なぜなら、それをおびやかすような出来事が、世界の、日本の、わたしたちの日常のあちこちで今もなお起き続けているからです。
みなさんと即興的で創造的な議論を少しでも多くともにすることで、生きやすい社会とはどんなものか、ともに考えていきたいと思います。2年間よろしくお願いします。
長津 結一郎
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実践するひとり として、まいにちの ちいさな つみかさねこそが たいせつだ、とかんじています。一年に一度の大会やジャーナル発行だけではなく、すべての会員が継続的に、この学会の目標に向かいながら、それぞれのできることをかさねあわせていくための、いろんなあそびを試みたいとおもいます。みなさん、どうぞ関わってください。共同代表の役目は、会員ひとりひとりのこえをききつつ、会の内にとじこもることなく、外にむけて会の理念や活動を発信していくことだ、とかんがえています。てはじめに、代表3名によるオンライン・トークを月に1回ほどのペースでやってみます。どうぞ、おたのしみに!
ほんま なほ
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私は少し歪なものが好きです。でも整然と並んでいるものも好きです。綺麗なものに惹かれますが傷ついていたり汚れているもののことが、いつもとても気になります。そして誰かの話を聞いて想像をふくらませることが1番好きです。
これから2年間共同代表3人で力を合わせて、会員の皆さんの声をひろってつなげる仕組みを作り、その対話の中から受け継いだものと新しいものを循環させて、皆さんと一緒にまだみたことのない学会を作っていきたいです。
森 合音

 

●アートミーツケア学会presents 共同代表トーク「境界をまたいでみたら・・・・・!?」アーカイブ●
アートミーツケア学会の共同代表3人がいろんな話題についてラジオ形式で語り合うトークです。
・第1回 「アートミーツケア学会って?」(2023年7月24日公開)
https://youtu.be/plQ1f3YNW4k
・第2回(2023年9月16日公開)
・第3回(2023年10月7日公開)
・第4回(2023年11月30日公開)
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現代社会が大きく変動するなか、医療や福祉、教育、コミュニティなど人間の生を支え、育む場もまた大きな変化の時代を迎えています。人間が人間を求める「ケアの時代」にあって、生の質とは何か、それを高めるとはどういうことか、幸福とは何か、豊かに生きるとはどのようなことかという疑問が提示されはじめています。
芸術の分野においても「芸術は社会にとって必要か」という問いのもと、特権的なものではなく、人間にとって、社会にとって必要な芸術のあり方が問われています。
このようななか、医療におけるアートの役割、豊かに美しく老いること、コミュニティとアートの関わり、障害と創造性、自然と癒し、テクノロジーの進歩とヘルスケアの関わりなど、アートが「芸術」の意味をこえ、人間の生きる技術としてのアートの実践が各地ではじまっています。それらのケアの現場におけるアートの実践は、想像力による生きる力の回復であり、人間らしい感性を社会システムのなかに取り戻していくための、アートの新しい可能性にほかなりません。
しかし、これらの実際の行動としてのアートは、分野を横断した多様な活動であるために、実践を体系づけ、その社会的意義、理念を探究していく場がほとんどありませんでした。
そこで、人間の生命、ケアにおけるアートの役割を研究する場として、また人間を幸福にし、人間の全体性を恢復していくためのアートの力を社会にいかしていくためのネットワークとして、アートミーツケア学会を設立することにしました。
本学会は、実質的かつ実践的に、研究者、実践者の枠をこえ、研究と現場を往還し、豊かな感性から確かな知をうみだしていくことをめざします。また、人文、社会、自然科学の分野を横断し、さまざまな社会の問題に対してアートの力を提案し、しなやかな視点をもちながら一人ひとりの物語を大切にした社会システムについて考えていきます。同時に、新しい時代における健康とは何かを考え、人間の全体性の恢復、一人ひとりが生まれ持ったいのちを花開かせることのできる社会についても考えていきます。
アートは人間の生命にどのような意味をもっているのか、そして私たちの未来に対してどのような役割を果たしていくことができるのか。積極的な生のあり方、感受性をともなった知のあり方を探究することから、新しい知と新しい美の地平をひらき、人の生きやすい社会、文化を提案したいと思います。2006年3月11日 設立発起人一同